名古屋南部大気汚染公害訴訟弁護団
1 はじめに
2001年8月、89年3月の提訴以来12年ぶりに国と企業との間で全面解決和解が成立してから、2年半余りが経過した。裁判による闘いについては終止符が打たれたが、国との和解で確認された国道23号の環境施設帯整備、車線削減のための交通量調査、沿道環境改善のための連絡会設置、健康調査、企業から勝ち取った解決金をもとにした街づくりの取り組みなど、環境改善と住み良い街づくりのための課題は山積している。特に国との道路連絡会については、大気環境改善の決め手となる大型車交通量削減のための対策の具体的展望はなかなか見えてこないのが実情である。現時点までの取り組みを振り返りつつ、今後の課題を明らかにしたい。
2 名古屋南部道路環境連絡会関係
全面解決和解において国との間で確認された名古屋南部地域道路沿道環境改善に関する連絡会(略称:道路環境連絡会)の第1回は、数回の準備会による打ち合わせを重ねた上で、昨年5月17日(金)に名古屋港ポートビルにおいて弁護団、専門家、患者会役員のほか原告ら約60名の参加の下に開催された。
連絡会では、国土交通中部整備局と環境庁の担当者が、和解条項に基づいて計画した対策の進行状況や今後の予定を報告した。その内容は、概要①車線削減②③8地区を重点とした緑地帯などの「環境施設帯整備」④23号沿道に新たに二酸化窒素や浮遊粒子状物質の測定局を6カ所設置し、インターネットや表示板で公表する、などの報告があった。しかし、車線削減は和解までに実行した以上には進展していない上、そもそも大気汚染の改善目標、そのための大型車交通量削減の目標が示されておらず、目標との関係で現状をどう評価するのかという視点に欠けている、大気汚染のそう的データが示されていない、患者が高齢化する中で、具体的な施策や成果を示すべきだ、など患者や側から不満が続出した。
その後昨年10月、12月及び本年2月に準備会が開催された。23号沿道に新たに設置した6カ所の測定データを提示すると共に、国側は伊勢湾岸道路自動車道が三重川越インターまで開通した後の平成14年7月の自動車交通量調査の結果を示し、前年の平成13年7月のデータと比較して23号の大型車1日交通量が39300台から3100台減少し、逆に伊勢湾岸道路の大型車1日交通量4100台から8100台に増加したとの結果を報告した。しかし、名古屋南部地域における国道1号、23号、伊勢湾岸道路など全体の中央断面の1日交通量の合計は、前年比で1400台の増加となっている。また大気汚染についても、23号沿道の6カ所の新設測定局における測定結果は、1年分の想定データはそろってはいないものの、本年2月までの測定結果は、要町など複数の測定点で、二酸化窒素、浮遊粒子状物質とも環境基準値を超える汚染となっており、1年分のデータがそろえば、環境基準を達成できないことはほぼ確実と見られる。
結局、現時点では特に国土交通省の姿勢は、伊勢湾岸道路を全面開通させることにより、自然発生的に大型車交通が伊勢湾道に誘導され、結果として23号などの大型車交通量が減少することに「期待する」というものに止まっていると言わざるを得ない。国は「TDM実証実験」と銘打って、中部運輸局が平成13年10月から14年3月にかけて、地元の大手運送業者5社に協力を求めて、伊勢湾岸道路の通行料金を補助することにより、迂回実験を行ったが、半年間の5社合計で2500回の実施に過ぎず、1社あたりにすると1日4回程度の実験に過ぎないため、交通量の変化などの結果は現れるはずもなく、実際には運転手からアンケートを取るだけの実験に過ぎなかった。これではとうてい交通需要手減少のための社会実験とは言い難いものであった。
全体として大型車交通量をいかにして実現するのかなどの交通需要抑制の具体的方策はなく、仮に伊勢湾岸道路への大型車のシフトが23号の大型車交通量の減少につながりうるとしても、伊勢湾岸道路に大型車交通をシフトさせるようなロードプライシングなどの施策の具体的な展望はない。以上のように、現時点では、大型車交通量の削減についての中部整備局の対応は、ただ伊勢湾岸道路の全面開通を期待するということに止まっている。
今後原告側としては、全体としての大型車交通量自体の削減に向けて、国だけでなく名古屋市等にも働きかけ、名古屋市など関係自治体が取り組む「名古屋都市圏交通円滑化総合計画」策定の中で、大型車交通量削減、時間帯による大型車交通規制などの施策についての具体化に向けて運動を強化していく必要がある。
3 沿道環境施設帯整備について
和解条項「築地口インターチェンジ付近の国道23号沿道地域において、地元住民の意見を聞きながら環境施設帯整備について取り組む」の具体化については、地元港楽学区の住民代表との検討会を02年7月から本年1月まで6回実施し整備イメージ図の作成に至っている。しかし、その「イメージ」は本来の環境改善のための緑地帯などの施設のイメージに止まらず、「住民の要望」の名の下に「沿道直近に学童保育所を設置する」「テーマ性をもった商店街作り」「商業空間としての賑わいづくり」など、大気環境の改善、緩衝帯の設置という本来の目的から逸脱した、「市街地再開発」ともいうべき方向に進みかねない内容をもっている。沿道直近の汚染濃度の高い状態の改善のないままに、沿道に学童保育や商店街を作ることは、住み良い街作りに逆行することになりかねない。今後の原告側の意見の反映の取り組みが重要となってきている。
4 街づくり関係
昨年10月「名古屋南部環境再生センター準備会」が発足し、4月の正式発足に向けて、地域経済や都市空間設計の専門家などの協力を得ながら、名古屋南部地域の街づくりのあり方についての検討を続けている。環境再生センターは、生活環境改善事業を行うが、その主な内容は(1)名古屋南部地域の交通負荷・大気汚染軽減に向けた政策の監視、改善要求活動(2)名古屋南部道路連絡会への参加と共同運営(3)環境保健活動(4)生活環境改善活動(5)名古屋南部地域の環境再生活動(6)環境NPOの設立準備(6)被告企業の公害防止活動の監視と改善要求活動など。本年四月に設立し、二年間程度の活動実績を経てNPO法人の設立を目指している。