名古屋環状2号線公害訴訟弁護団


 名古屋環状2号線は、名古屋市周辺を半径約10キロメートルで取りまく環状道路で、一般国道302号線と高速道路専用部分によって構成される。計画では、全長約66キロメートルに及び、現在までのところ、全体の約85パーセントが開通しており、名古屋市天白区、緑区の約10キロメートルの東部・東南部を残すのみとなっている。
 計画されている東部・東南部の沿線である天白区、緑区は、名古屋市の東南部に位置する丘陵地で、ここ20年ほどの間に住宅地として急発展してきた地域である。


 名古屋環状2号線の事業計画者である愛知県と名古屋市は、一方で環状2号線を計画しておきながら、この計画を明らかにすることなく予定地周辺を住宅地として開発することを積極的に押し進めた。この計画を知らないまま、計画地周辺に住宅を購入した住民にとっては、環状2号線の施行命令(99年)が出されること自体が寝耳に水であった。自宅の目の前を高速道路が通り、日夜にわたる騒音、振動に苦しめられ、また排気ガスによる健康破壊に襲われる。名古屋南部大気裁判の現場から遠くない場所に住む住民たちにとって、大気裁判に取り組む患者たちの姿は人ごとではなかった。
 そこで、住民たちは、名古屋環状2号線懇談会を結成し、愛知県、名古屋市、国土交通省、道路公団との間での粘り強い交渉を開始したのである。


 名古屋環状2号線の都市計画が策定された82年に、名古屋市は、独自の環境アセスメントを実施している。このアセスメントにおいて、名古屋市は次の環境保全目標をかかげた。
 大気については、①二酸化窒素は年平均0.03ppm以下であること②一酸化窒素は年平均5.71ppm以下であること。騒音については、①第1種住居専用地域などでは、昼間60dB以下、朝夕は55dB以下、夜間50dB以下であること②商業地域などでは、昼間65dB以下、朝夕は65dB以下、夜間60dB以下であること。
 そして、事業計画者と事業施行者は、名古屋環2懇談会に対し、環境保全目標を、供用開始の当初から遵守することを度々約束したのである。


 ところが、すでに供用が開始されている、名古屋環状2号線北部においては、環境保全目標を上回る数値が検出されている。そこで、事業者の側は、どのようにして環境保全目標を実現するかが問われることとなった。
 事業者側は、01年に実施した環境影響評価のフォローアップによる予測照査を実施し、その結果として環境保全目標を達成できることが確認されたと称してきた。
 しかし、予測照査は、供用開始時期を明確にできないとして予測時期を2020年に設定しており、供用開始の時点での環境保全目標の達成を担保するものではあり得ない。また、既供用部分との対比においても、大型車混入率や走行速度について妥当な予想を行ったものか極めて疑問であること、排出係数についても十分な説明がなされていないという問題点があった。
 このような住民の疑問に対し、事業者側は満足に答えようともしないまま、説明会を次々と設定し、「住民合意」の既成事実を作り上げようとしたのである。

5 そこで、2002年7月22日、名古屋環状2号線東南部の沿線住民3902名が、事業施行者である国土交通大臣と日本道路公団総裁を相手に、名古屋環状2号線東部・東南部の道路及び関連施設の工事を行ってはならないことを求めて、公害調停を申し立てることとなったのである。
 2003年1月14日に開催された第1回調停期日において、相手方らは、申立人側が対席の場における意見陳述の求めたことを頑なに拒否するという態度をとった。
 調停は、次回以降建設予定地、既供用地域の現地調査などを行う予定である。


 もともと、環2沿線住民は、道路建設絶対反対という立場をとるものではなく、環境にやさしい道路をつくってほしいとの一致点で運動してきた。そのような立場から、住民は、高架式ではなく堀割式にするようにという提案や、排気ガスの浄化システムに関する新しい技術の導入なども提案してきた。
 しかし、事業者側が誠実な交渉を行わないため、やむを得ず、工事の差止を求める調停を申し立てた。調停を選んだのは、事業者の約束する環境保全目標の達成が本当に可能なのかを調査することを求め、これに基づいた話し合いによる解決を探ることが必要と判断したからである。
 住民側としては、調停の場におけるねばり強い話し合いに臨むとともに、全国の運動と力を合わせ、不合理な道路行政のあり方そのものの転換を求めることが必要であると考える。