弁護団事務局長 関島保雄

1 圏央道工事の概要

 圏央道(一般国道468号)は、東京の都心から40ないし60㎞圏に位置する1都4県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県)にまたがる総延長300㎞の環状の自動車専用道路である。国と日本道路公団の合併方式で公団4割、国6割の費用負担割合。
 圏央道は自然環境の豊かな地域を通過し、八王子市では、明治の森高尾国定公園と都立高尾陣場自然公園に指定されている高尾山と八王子城跡をトンネルで通過し裏高尾には巨大なジャンクションを建設する計画である。(ジャンクション部分は公団のみ工事を行う)
 八王子城跡と高尾山に直径10メートルのトンネルを2本堀り、裏高尾に建設される圏央道と中央自動車道を繋ぐ八王子ジャンクションは、約8本のループ式で裏高尾地区の地上から約60mの高さに東西約800m、南北約300m、総延長約8キロmに及ぶ巨大なものを造ろうとしている。また八王子城跡トンネルと高尾山トンネルの自動車排気を集めて換気するため、高さ約30mの換気塔(排気塔)が作られる。さらに高尾山南麓には圏央道と国道20号線とのインターチェンジも造られる。
 工事完成区間
 1996年3月 埼玉県鶴ヶ島ジャンクションから青梅インターチェンジまで19.8㎞が開通
 2002年3月青梅インターチェンジから日の出インターチェンジまで8.7㎞開通合計28.5㎞開通(全体計画の約1割弱に過ぎない)

2 工事計画の進行と反対運動の経過

 1984年8月 裏高尾住民に圏央道計画が公表された。
 1989年10月 立木トラスト運動開始
 2500本の立木
 1996年春 八王子城跡トンネル北口坑口付近でオオタカの営巣発見
 1999年9月 八王子城跡トンネル北側から工事着工
 現在工事は八王子城跡トンネルは区間2.4㎞の内北側から約1㎞の地点まで掘削した。しかし2002年1月末に地下水位13㍍低下の事故発生し、工事は中止された。2002年11月工事再開したが止水工事をしながらの工事であるため工事速度は遅い。1年で100㍍の速度。今後の監視が重要。
 一方裏高尾は中央道とのジャンクション部分の工事が進行し、橋桁工事と換気塔建物工事がかなり進んでいる。

3 工事差止訴訟の提訴とその概要(原告の主張の概要)

① 圏央道工事差止請求訴訟(民事訴訟)の進行
  1次提訴  2000年10月25日
  東京地裁八王子支部民事第2部係属
    原告 1071名
     内訳
       自然物5名(高尾山、八王子城跡、ブナ、オオタカ、ムササビ)
       自然保護団体 6団体
       自然人  1060名
    被告  国及び日本道路公団
  2次提訴  2002年4月16日
    原告 263名
     内訳 人間262名
         自然保護団体1名(東京勤労者山岳連盟)
     現在の原告総数 人間1322名
                自然保護団体7団体
 自然物に対する判決は2001年3月26日、自然物には法的当事者能力がないとして訴えを却下し、控訴したが2001年5月30日東京高等裁判所も同じ理由で控訴棄却し、上告せず確定。
 2002年11月までの2年間で審理は13回の口頭弁論が開かれている。
 今年夏頃から証人尋問に入るペース。
② 裁判で護ろうとしているもの
Ⅰ 高尾山及び八王子城址の貴重な歴史的・自然的環境の保護
 高尾山天狗裁判は、国定公園である高尾山及び八王子城址を中心とする貴重な歴史的自然的環境及び自然の景観を自動車専用道路である圏央道から保護すべきとして工事差止訴訟を提起したものである。国定公園や都立公園に道路を通すこと自体異常。
 高尾山の自然はブナの大木が80本、イヌブナが800本もある。また冷温帯と暖温帯の樹木が棲み分ける現象は関東地方では例を見ず、1300種以上と種類の多さと質において貴重な植物相を形成している。野鳥・昆虫等動物も多様である。さらに山上には薬王院があり関東一円の信仰の中心であり、明治の森高尾国定公園に指定されてその自然が保護されている。年間260万人が訪れ多くの地元市民や都民等が日常の都市生活から離れて自然とふれあい、憩いの場として利用されている。
 八王子城址は、北条氏照が築いた城で、戦国時代最大規模の城域を持っておりその文化財的価値は高く、国史跡として指定されている。そして圏央道トンネル抗口付近で、1993年に、「国内希少野生動植物種」に指定されている「オオタカ」の営巣が発見され、本来オオタカの営巣が保護されない限りトンネル工事は出来ないのである。
 圏央道のトンネルによって地下水脈が破壊され、滝や井戸枯れだけでなく、これらの貴重な植物や動物及び歴史的遺跡が一体となった生態系が破壊される危険性が高い。道路の騒音や排気ガスは自然の静寂を破り動物を住め無くさせる。
Ⅱ 裏高尾住民の健康被害の予測
 裏高尾に作られる排気塔は八王子城址と高尾山トンネルの排気を全て集め、裏高尾は自動車排気ガスの谷間と化す。裏高尾に住む住民は環境基準を超える排気ガスが充満する中で健康被害を受けて生活することを余儀なくされる。圏央道による騒音も環境基準を超える騒音レベルで睡眠妨害などの被害が予想される。
Ⅲ 自然・歴史的景観
 高尾山及び八王子城址を中心とする自然的・歴史的環境は統一された景観そのものであり、高尾山北側の圏央道による中央自動車道と接続させる巨大なジャンクションや南側の国道20号とのインターチェンジのような巨大な人口造形物を持ち込むのは自然景観の破壊である。
③ 現在の裁判の状況
 原告らが主張している環境権等の自然環境価値が認められるかが争点となっているが裁判所は人格権に絞ろうとしている。このことは裏高尾に居住していない大多数の原告を切り捨てようとするもので認められない。本件の訴訟の中核は自然保護運動である。
 一方訴訟提起後原告らが危険性を指摘したことが現実に発生し始めた。特に地下水位の低下問題は重大視して高尾山トンネルの危険性にも関連するので裁判で繰り返し主張している。

  • 八王子城跡のオオタカが工事が原因で平成14年春営巣を放棄した。
  • 八王子城跡トンネル工事(北側から約半分の1000メートルほど掘削)により八王子城跡の地下水位が低下し、43戸の井戸涸れ被害、地下水流出による地下水位の13メートルの低下が起きてトンネル工事をストップし止水工事をせざるを得ない状況になっている。
    以上のことから八王子城跡トンネル及び高尾山トンネル工事により地下水脈破壊や沢涸れの危険性が明らかとなった。
  • 住民が独自に圏央道完成後の裏高尾の大気汚染の予測を環境総合研究所に依頼して科学的に分析した結果、窒素酸化物も環境基準を超える被害が住民に及ぶことが判明した。
  • 工事の必要性に関して、現在道路公団や国は高速道路など高規格道路建設で莫大な借金を背負いこれ以上自動車専用道路工事は出来ない財政状況にあることが明らかになった。圏央道工事を建設する体力は国公団にはない。
  • 圏央道工事の巨額な無駄遣い
    青梅市今井5丁目から八王子市裏高尾町間に要する費用は1㎞当たり212億円。総延長300㎞の圏央道に換算すると6兆円余、今後工事費の値上がりなどを考慮すると,総工事費は10兆円かかる。
  • 圏央道自体も既に赤字。
    圏央道の現在の経済採算性に関する状況は,鶴ヶ島ジャンクションと青梅インター間の約20kmの営業で年間146億円の赤字。
  • 日本は巨大な赤字国家。
    国の資産と負債の差額は776兆円もの赤字 このような深刻な財政危機を克服するのは支出の多くを占めている無駄な公共事業とりわけ道路への支出を削減することである。
  • が圏央道建設の目的であるが、都心部に都市機能を集中させることが交通需要を増大させ交通渋滞を招く原因。都心部の機能を拡散しない限り交通渋滞は解消できない。
  • 都心部の交通渋滞の解消

4 土地収用との闘い

 2001年11月20日
   事業認定の申請(八王子市裏高尾町の中央自動車道北側から八王子市戸吹町まで事業認定申請区間約9㎞)
 2002年4月19日
   事業認定の告示
 2002年5月17日
   国土交通大臣に対し異議申立
   異議申立人 1292人と自然保護団体7団体

5 事業認定取消行政訴訟の提起

  提訴 2002年7月9日
  原告 879名
    内訳 自然人872名
      事業認定地の土地所有者    1名
      事業認定地の土地の賃借人 362人
      事業認定地の立木所有者  288人
      その他環境保護者       225人
      自然保護団体          7団体
  被告 国土交通大臣 林寛子
  係属部 東京地裁民事第38部

6 事業認定取消訴訟における主張の整理

 取消請求の理由
 土地収用法の20条2号違反  国公団は今後圏央  道を建設する財政能力がない。
              3号 4号違反  公共性、公益性の要件を欠く
1. 事業計画策定及び本件事業認定に至るまでの手続きが違法
 ① 都市計画決定手続の違法
 ② 環境影響評価手続の違法
裏高尾地区の大気汚染の予測手法に誤り、地下水脈破壊に対する調査が不十分で再度環境評価をすべきにもかかわらず行わない違法。
 ③ 市民の質問に答えるとの約束を反故にしたまま事業認定を強行
 ④ 文化財保護法違反
 八王子城跡は文化財保護法の国史跡に指定されている。
 今後地下水低下や地下水脈破壊により御主殿の滝涸れ、城山川の沢涸れ、遺跡の破壊の危険性が高まった。
 ⑤ 種の保存法違反
 種の保存法により国内希少野生動植物に指定されているオオタカの営巣が八王子城跡で確認された。営巣破壊の危険性があるトンネル工事は出来ない。ところがトンエル工事を強行した結果、2002年春に営巣を放棄した可能性が高い。
 ⑥ 自然公園法違反
 本件圏央道は明治の森・高尾国定公園及び都立高尾陣場自然公園内を通過する。豊かな自然環境や生態系を破壊し自然公園法などに違反する。
   2. 事業計画の達成によって得られる公共の利益に対する反論
 ① 首都圏全体の交通円滑化
 首都圏の交通渋滞の原因は都市機能の都心部への1極集中構造が過剰な自動車需要を生み出す原因。ますます1極集中は加速している現状。それを改善しない限り都心部の交通渋滞は解消されず、圏央道建設では交通の円滑化は図れない。
 ② 安全な道路交通環境の確保
 圏央道建設により地域の交通事故が減少するとの根拠はない。
 ③ 地域間交流の拡大・産業活動の活性化
 圏央道計画に基づく多摩地域の大型開発計画はバブル崩壊後ことごとく崩壊し白紙となっている。地域には圏央道を造る必要性もない。
 ④ 沿道環境の保全
 緑豊かな環境が圏央道によりことごとく破壊し環境保全に配慮していない東京都の景観保護条例にある多摩丘陵地基本軸保護構想にも違反する。
 ⑤ 都市構造の再編
 都心部への都市機能の1極集中が都心部の交通渋滞の原因であるから、都市機能を拡散し、自動車に依存しない社会への転換が必要。

7 今後の土地収用法の闘い

 ① 東京都収用委員会への裁定申請との闘い
 2003年2月か3月には東京都収用委員会への裁定申請が出される予定。新土地収用法では収用委員会では事業認定の公益性、公共性の議論はしないとなっているが、明白な瑕疵があり事業認定が無効であるとの審理を何処までやりきれるかが課題。
 ② 民事差止訴訟、取消訴訟、土地収用委員会の闘い、事業認定申請との闘いなど多くの争いが同時進行する中での運動を強固にすることの課題。