西淀川大気汚染公害訴訟弁護団

1 はじめに

  裁判も終了してすでに4年を越えたが、弁護団は、残された課題を果すために維持している。しかし、そうはいうものの裁判が終了してしまうとどうしてもその結集は弱くなり、弁護団独自の活動というよりも、患者会やあおぞら財団の活動に弁護団が入っていくという形の活動になってしまいがちである。公害のない街づくりや道路公害根絶そして被害救済といった和解後の課題は、これまで以上の運動の広がりの中でしか解決できないものであるから、弁護団独自の活動が少なくなるのは当然のことではあるが、問題なのは、活動に参加する弁護団員が限られてくるということである。弁護団事務局が具体的な活動目標を提起できなかったこともその一因ではなかったかとの反省もある。弁護団として残された主要な課題の第一は、和解の成果である国・公団との連絡会を実効性のあるものにするなどして、道路公害を無くしていくこと、そして第二は、これまでの弁護団としての活動を総括して、西淀川公害の経験を承継することの一助とすることである。この観点から、ここ1年の活動を報告する。

2 道路公害をなくすための取組

(1) 患者会・弁護団はあおぞら財団を事務局として、学者・研究者や住民運動関係者と一緒に「西淀川道路環境対策検討会」を月1回のペースで開き、道路公害を無くすための具体的な提言を次々に打ち出してきた。その提言は直接に市民や国・自治体に訴えるとともに、連絡会において国・公団に対して提示してきた。検討会では、大型自動車走行量削減の一番のネックである物流問題解決のため、昨年度に引き続いて貨物自動車を対象とした環境TDMの検討を行なってきた。昨年度は、大阪大学大学院工学研究科交通システム研究室(新田保次教授他)と共同で行った調査をもとに、内陸部通過交通の抑制、環境ロードプライシング、低公害車の利用促進のための社会実験を内容とする「阪神地域における貨物自動車・環境TDMの提案」を作成し、2001年5月30日の国・公団との第5回連絡会で原告団から提案した。その後、前記研究室から4月24日付で「2001年度 貨物自動車の利用に関するアンケート調査 中間報告」が発表され、また西淀川区内の中島工業団地事業者や尼崎市事業者のアンケートなどを行なうなどしており、「中島工業団地内での低公害TDM実験に関する調査研究」なども計画している。
(2) 本年度の「西淀川地区道路沿道環境に関する連絡会」は2002年6月3日に第6回として開かれた。これに先立って原告団・弁護団は、次の点を申し入れた。

① PM2.5の測定を早急に行なうこと。少なくとも実施の目途を連絡会で明らかにすること。とりわけ、新たな測定局の関係でこの点は強く主張する。
② 光触媒の実験結果の公表。
③ 環境ロードプライシングの試行実験はどうなっているか、問題点は何か。課題は何か。今後の改善の方向等を具体的に明らかにされたい。同時に試行実験を並行させてどんな調査を行なうか明らかにされたい。
④ 尼崎和解に盛り込まれた国道43号線の大型車規制に関して、整備局の検討の結果はどうか明らかにされたい。
⑤ その他,沿道法の活用、関係機関との連携協議の状況など和解条項で実施されていない項目の確認

 連絡会当日、原告団から、「2001年度西淀川道路環境対策検討会事業内容」と題して、これまでの取り組みを報告し、国・阪神高速道路公団に対してあらためてこれらの提案に応えるように促した。これに対して近畿地方整備局・阪神高速道路公団から出された「大阪市西淀川区における環境対策」と題する資料は、単なる事業報告であって、抜本的な解決案も、またこれまでの原告団からの提案に応えるものではなかった。
 質疑応答は、国土交通省が設置する測定局でPM2.5の測定がないこと、ロードプライシングの実施方法を今後どうやっていくかが、主要なテーマとなり、整備局はPM2.5の測定については環境省の調査結果を見守るとし、ロードプライシングの試行については、結果がわずかであったにもかかわらず、それ以上のことをしようをしない状況で、その消極的な姿勢が浮き彫りになった。また、整備局は歌島交差点の「改良」をその資料の最初にあげ、地下道工事が進行中であるが、そのことによって横断歩道を廃止するという動きがあり、この点についても抗議をした。整備局はこの工事について、当初渋滞対策であり、それが結果として環境対策につながるとの見解を出したため、原告団から交差点改良は和解条項では環境対策のために実施するとなっていたことを指摘され、撤回した。なお、この問題についてはその後大阪国道工事事務所との間で、2002年5月15日と9月17日に懇談会が開かれ、今後とも横断歩道を残すための運動を強めていくことにしている。
 光触媒についても話題になり、国は効果がなかったとして調査をやめるという方針を出したが、これに対して原告団は1日あたり約60台分の大型車の排出量削減に相当するという結果を考えると整備局が試行実験を行なった実績よりまだましであり、今後も引き続き実施すべきであると主張した。
 連絡会は今回で6回目を迎えているが、根本的な排出量削減について国・公団はなんら対策をとってきていないし、あおぞら財団を通じて作製したこれまでの提言に応えようとしていない。しかも、整備局では、担当者がどんどん代わって、和解時の緊張した状態が継続されていないし、本庁決済であるということもあってか、連絡会で何かを決めようとしない状況にある。まずは連絡会を、一方交通のやりとりから対話のルールを確立し、重点課題を絞り込んで具体化すること、そのためのワークショップができるようにしなければならないし、原告団としてもそのことを申し入れているが、その応答はない。このような状況を打開するためには、具体的な提案だけでなく、あらためての運動強化の必要性を痛感している。

3 公害経験を承継するための取組

 西淀川公害については、裁判終了後、訴訟記録自体の製本化を行い、その目録を作成中である。また、原告一人一人の記録である「手渡したいのは青い空―西淀川公害をたたかった原告の証言―」、「青い空の記憶―大気汚染をたたかった人びとの物語―」は出版されている。現在、運動面も含めた多くの資料は患者会・あおぞら財団の建物の中に保管され、その保存・利用をいかに行うべきかを検討するために、あおぞら財団を事務局として、患者会・弁護団は学者・研究者の協力を得て、「公害問題資料保存研究会」を開いている。また、公害経験の語り部として、患者の人たちは学校など出向いており、これに弁護団はも協力している。
 このようにして、公害経験の承継のための活動は一定行なわれているが、弁護団としての総括、そしてその結果としての本つくりはなかなか進まないで、今日に至っている。しかし、「公害問題資料保存研究会」の関連研究会である歴史関係の「西淀川地域研究会」が裁判の経過についての弁護団からの聞き取りを計画している状況があり、これをきっかけに懸案の総括と本作りの作業に入りたいと考えている。