言うまでもなく、公害、環境問題は全人類的な課題である。アジアでも、資源採取、急激な工業化、自動車交通の増加、各国の開発優先政策、日本の公害輸出等により、深刻な環境破壊、公害被害が発生している。利潤追及のために環境破壊や公害被害の発生を厭わない勢力が国境を超えた経済活動をますます活発化させる中、環境保護、公害被害救済を目指す公害弁連も、国際交流、国際連帯を強固にする必要がある。
2002年8月23日から26日にかけ、公害弁連は、環境法律家連盟、グリーンコリア環境訴訟センターとの共催で、「日韓公害・環境訴訟シンポジウム」を、韓国、ソウルの地で開催した。公害弁連が主催(共催)して国際シンポジウムを開くのは、はじめての取り組みであった。
国際シンポジウム開催が実現する下地として、90年代後半から、公害弁連の弁護士と韓国の法律家とが、交流を深めてきた経過があった。公害弁連の弁護士による韓国旅行の際の環境保護NGO訪問、韓国の司法修習生の日本での社会研修のサポート、公害弁連総会への韓国の弁護士の訪問等の機会を通し、相互理解と信頼関係の形成が、着実にはかられてきた。2001年3月の公害弁連総会には、韓国の金浦空港騒音訴訟弁護団、グリーンコリア環境訴訟センターから各1名を招待し、韓国での取り組みについての特別報告を受けた。
こうした経過を経て実現した「日韓公害・環境シンポジウム」には、日本から30名が参加した(訪韓団長・近藤忠孝代表委員)。訪韓初日は韓国側主催団体であるグリーンコリアの事務所を訪問し、夜の懇親会で盛大かつ真心のこもった歓迎を受け、2日目に、大韓弁護士会館においてシンポジウムを開催した。日本側からは、熊本水俣病、諫早干拓、東京大気の取り組みを報告し、韓国側からは、ナクトン江フェノール流出事件、セマンクン干拓事業に対する未来世代訴訟、梅香里米軍射爆場、群山米軍基地騒音訴訟の取り組みについて報告を受けた。これについての質疑応答と討論も、相互の問題関心がかみあい、熱気あふれるものとなった。3日目にセマンクン干潟干拓現場の現地視察を行い、訪韓日程を終えた。
訪韓後も、両国で出された判決等の情報交換、今後の交流のありかたについての意見交換などの交流が続いている。韓国側では、8月のシンポジウムを契機にソウルでの大気汚染訴訟の提起を具体的に検討しはじめたとのことであり、準備、検討会の場への日本からの弁護士派遣の打診もある。韓国の司法修習生を今後も毎年日本に派遣して社会研修を受けさせたいとの要請もある。
韓国以外では、2002年11月に中国で開かれた中華全国律師(弁護士)協会・国家法官(裁判官)学院・中国政法大学が共催する「環境法セミナー」に、公害弁連の弁護士2名が招待された。セミナーでは、特別講義「日本の公害裁判」が企画され、中国全土から集まった120名以上の裁判官と弁護士から、日本の公害被害救済の取り組みへの熱い関心が寄せられた。
アジア・太平洋戦争における侵略、戦後の経済進出を通し、日本は、アジア各国の政治、経済の健全な発展を阻害し、環境破壊、公害被害の発生を助長してきた。単なる「地球村」の一員としての責任にとどまらず、これらの歴史を踏まえての責任のあり方が、公害弁連にも問われている。成果をあげつつある国際連帯の絆をいかに広め、深めるのか、2003年の大きな課題のひとつである。