【若手弁護士奮戦記】 ノーモア・ミナマタ奮闘記

弁護士 中島潤史
(熊本・58期)

1 ノーモア・ミナマタ弁護団へ加わる
 私が司法修習生だった平成17年の夏、勤務予定先の熊本中央法律事務所から電話がありました。
 「水俣病の訴訟をまたやることになりそうだ。原告は1000人規模となる。あなたも加わってくれ。」
 私は自分の耳を疑いました。水俣病?もう何年も前に解決したのでは?なぜ今ごろまた訴訟なの?よく事情が分からないまま、私は弁護団の一員に内定したのでした。
 そして、私が司法研修所を卒業した平成17年10月3日、ノーモア・ミナマタ訴訟が熊本地裁に提起されました。

2 原告から委任状を取得する
 弁護士になって早々、第二陣の提訴に向けて、水俣病患者の方々とお会いして、委任状を取得する作業に加わりました。
 その際、御所浦という島に渡ったのですが、現在の美しい御所浦の海を見ただけでは、今でも本当に、水俣病の被害があるとは、とても想像できませんでした。
 しかし、水俣病患者の方々からお話を聞いてみると、その被害がいかに深刻かが分かったのです。
 ハシを持ったときや寝床をかたづけるときに手足がひきつったり、少しの段差でもつまづいて転んだり、急に頭が割れるように痛くなったり、ウォーという耳鳴がなったりとさまざまな症状を訴えられます。
 それだけではありません。熱い物を触っても熱さが分からず、後でヤケドに気づいたり、痛みの感覚が鈍いために、足に釘が刺さって血まみれになっても気づかなかったりと、常に危険と隣り合わせで生活しているような状況なのです。このように、手足の感覚に障害のあることが水俣病の特徴的な症状です。
 委任状取得作業が終わった後、私は、水俣病患者の方々から、力強くがっしりと握手をされ、よろしくお願いしますと何度も言われました。水俣病患者の方々が、新人の弁護士にすぎない私にさえ、大きな期待をかけてくださっていることを、ひしひしと感じました。「これはやらんといかんばい。」慣れない熊本弁で、私はそう思いました。

3 第一回口頭弁論で意見陳述
 平成17年12月26日、ついに第1回口頭弁論が開かれました。なぜかそこには、多数の原告、被告、裁判所を前にして、意見陳述をする私がいました。意見陳述は、まず新人がやる。これが熊本の掟なのです。
 私は、御所浦での経験を踏まえ、被告であるチッソ、国・熊本県がいつまでも患者救済の責任を果たそうとしないのは、水俣病の被害の実態を体で感じ取り、その苦しみを想像するということを怠っているからだと指摘しました。
 とても緊張しましたが、周りの人からは分かりやすかったと言われ、ホッとしました。

4 敵地に乗り込む
 平成18年4月21日、水俣病公式確認50周年を目前にひかえていたため、環境省に対し、私たちが提唱する「司法救済制度」による解決に協力せよ、という申入れ行動をすることになりました。
 そこで、私が申入書を持って、原告2名と共に、霞ヶ関にある環境省へ乗り込むこととなりました。敵地への殴り込みは新人がやる。これが熊本の掟なのです。
 この「殴り込み」は、事前に環境省に連絡していたのですが、現地で対応した担当者は、いわば格下と思われる特殊疾病対策室長補佐でした。
 私は、もっと上の人を出せと交渉したところ、今、50周年に向けた国会決議や首相談話の件で、みんな国会に行っているということでした。じゃあ、国会で会えないかと迫ったのですが、きちんと対応してくれず、時間が経過するばかりでした。
 そこで、私は、マスコミが10名くらい来ていたのできちんと報道してもらう方が大切だと思い、国会に行くことなく、環境省の中で申入書を渡すことにしました。
 そして、担当者には、途中でもみ消したりせず、きちんと大臣に渡すように釘を刺しておきました。
 翌日の熊本の新聞には、このときの様子がきちんと報道されていましたので、とりあえず私の役割は果たしたと胸をなで下ろしました。

5 ノーモア・ミナマタを広げる
 平成18年7月5日、熊本大学の授業の一環として、原告団長の大石利夫さんと2人で、水俣病についての講義をしました。
 参加してくれた学生の数はそれほど多くはありませんでしたが、大石さんが語る被害の訴えや、私が説明するこれまでの訴訟の経緯などを熱心に聞いてくれました。
 講義が終わった後、数名の学生から「水俣病がまだ終わっていなかったって始めて知りました。」との感想を聞き、若い世代に水俣病の問題を伝え、ノーモア・ミナマタの運動を広げるきっかけになったことをうれしく思いました。最近の学生も捨てたものではありません。

6 大きな力を結集する!
 水俣病は、公式確認50周年を迎え、裁判の方も佳境を迎えつつあります。被告らがもっとも恐れるのは、水俣病患者やその支援者の団結でしょう。
 すべての水俣病患者が正当な救済を受けるためには、大きな力を結集することが必要です。ぜひ皆様のご協力をお願いいたします。