八ッ場ダム訴訟報告

弁護士 広田次男

1、「1兆円ダム」八ッ場を廻る住民訴訟は提訴以来満2年を迎えた。
 利根川流域の1都5県の6地裁では、この2年間で7回から8回の裁判期日を経てきた。
 6地裁とも各々独自の特色(即ち困難性)を抱えながら、原告団・弁護団共に元気である。
 各地とも裁判期日に於ける傍聴動員には、若干の疲れが見える県もあるものの、基本的には傍聴席は満席であるし裁判終了後の集会も必ず開催されている。
 また、毎月行われる統一弁護団会議での議論も毎回予定時間通りに終了する事はなく、時間のやりくりは苦労の連続である。

2、まず、特筆すべきは10月9日に開催されたライブ&トーク加藤登紀子となかま達が唄う「八ッ場いのちの輝き」であろう。八ッ場ダムの問題を少しでも多くの人々に知って貰いたいとの思いから、運動体は様々な知恵を出し合い工夫を重ねてきた。  ツテを様々に辿り、著名な歌手である加藤登紀子氏の協力を得て上記の催しとなった。また、議論を経て、主催者は弁護団とは別の実行委員会形式とし、内容的にも訴訟はオブラートに包んでという事になった。
 しかし、八ッ場ダムの問題を世間にアピールするとの効果は大いにあった。朝日新聞は前後2回に亘り八ッ場ダムについての特集記事を組み、10月9日のイベントについても言及していた。
 当日は会場である日本青年会館大ホール1300席が満席となり、永六輔・池田理代子・野田知佑の各氏の他に、南こうせつ氏の飛び入り出演まであり、終了予定時間を1時間近くもオーバーする程の盛り上がりようであった。この成功と熱気を更に拡大・充実させる事により、運動への弾みをつけたいと思っている。

3、今後の予定として、提訴2周年記念集会を東京全水道会館ホールに於いて本年12月9日に開催する。
 各地のダム訴訟との連携を模索すると共に、当日は基調報告として永源寺第二ダムの勝利判決を予定している。滋賀の吉村稔弁護士に「参加者の元気が出る」報告をお願いしたところ、御快諾を頂き楽しみにしている。

4、訴訟の現状であるが、(1)治水、(2)利水、(3)環境、(4)危険性、そして財務会計行為と特別チームを5つに分けて準備書面を積み重ねてきたが、立証に移る潮時をどのように捉えるかの時点に来ている。
 課題として、立証計画の内容をどのように練り上げ、何時の時点でどの裁判所へ出していくかという、かなり議論を要する問題に直面している。
 その際に、当然に全国の裁判所の動向、特に面川開発、徳山ダムの各高裁判決には注意深い分析の必要がある。
 展望として、特に留意すべきは6地裁で同時進行する事の有利と不利を過不足無く見極める事だと思う。即ち、1勝5敗でもダム本体が止まれば勝利である。しかし、逆に最初の1敗が後の5連敗を呼び込む事にもなりかねないし、その逆も有である。

5、訴訟としても運動としても気の抜けない時間が続きそうである。