圏央道天狗裁判の現局面
事務局次長 弁護士 松尾文彦
三つの裁判
圏央道トンネル工事から高尾山と八王子城跡の豊かな自然的・歴史的環境を守ろうと、三つの裁判がすすめられています。
高尾山の隣山である国史跡・王子城跡と裏高尾地域(高尾山と八王子城跡の間の地域)のトンネル・ジャンクション工事に関する事業認定・収用裁決取消訴訟控訴審(東京高等裁判所)は、大気汚染と地下水枯渇、交通問題での証人尋問を経て、来年1月25日に次回期日が予定されています。
高尾山トンネル工事に関しては、本年4月の事業認定告示を受けて事業認定取消訴訟(東京地方裁判所)を提訴。審理が始まったばかりです。
これら全体の地域に関わる差止訴訟(東京地方裁判所八王子支部)は本年12月25日結審が決まり、最終準備書面の準備中です。
八王子城跡の滝涸れが深刻に
高尾山と八王子城跡を守るとりくみをめぐって、いま大事なことは次の点です。
第一に、残念ながら八王子城跡にはトンネルの先進導抗が掘られてしまいましたが、まだ、トンネルが完成したわけではなく、高尾山については、まだ工事の着手すらされていないということです。
ここからが勝負どころだということです。
第二には、このような局面にあって、トンネル工事差止と事業認定取消の必要性がいよいよ鮮明になっていることです。
とくに現在注目を集めているのが、トンネル工事による国史跡・八王子城跡の滝涸れ・水涸れ問題です。
トンネル工事によって八王子城跡に滝涸れや水涸れが起こることは以前から原告が指摘してきたことですが、昨年(2005年)5月、これまで一度も枯れたことがないといわれてきた八王子城跡の御主殿の滝が、初めて枯れるという事態が発生しました。
その後、とくに今年になってからは、頻繁に滝が枯れるという事態が続いており、このことは、もはや国側も認めざるを得ない事実となっています。
工事推進の根拠が掘り崩される
当初、国側は、滝枯れの原因を、例年に比べ降雨量が少ないことを理由にしていましたが、雨が降ると滝の水は復活するものの、しばらくするとすぐに水が枯れてしまうという異常な事態の前に、もはや降雨量が原因とは言えなくなっています。
地元八王子市長や教育長が、滝涸れはトンネル工事が原因だと公式に発言する中で、国側は「原因不明」との回答に終始し、対応不能に陥っています。
もともと、八王子城跡トンネル工事は、御主殿の滝に影響を及ぼさないことを前提に始められた工事であり、そのことが前提で国史跡である八王子城跡にトンネルを掘ること(現状変更)が許可されたものです。
御主殿の滝涸れなどは、まさに国史跡の破壊です。工事の前提を掘り崩す事態が、いま起こっているのです。
また、国側も、八王子城跡と高尾山とは同じ地層から構成されることから、「八王子城跡トンネルでの多くの地下水の情報は、高尾山トンネルの施工に生かされると考えられる」(「八王子城跡地質調査報告書」(建設省関東地方建設局相武国道工事事務所)と認めざるを得ません。
八王子城跡で起こっている水涸れは、高尾山トンネル工事による被害の先取りでもあります。
八王子城跡の水涸れの原因が明らかにできないということは、高尾山トンネル工事によって水涸れがおこらない保証がないということであり、この点でも、国側の工事推進の根拠が崩れています。