小松基地騒音差止訴訟控訴審結審

弁護士 荻野美穂子

1 本訴訟提起の意義
 航空自衛隊小松基地の騒音等をめぐる訴訟は、昭和50年に第1次訴訟が提起され、その後提起された2次訴訟と併合された後、名古屋高等裁判所金沢支部で平成6年12月26日に、一部勝訴判決(損害賠償認容、差止め却下)を得て、一つの区切りがついた。
 しかし、騒音被害に苦しむ人たちにとって損害賠償だけでは根本的解決にならないこと、騒音の源である在日米軍及び自衛隊の存在意義を問う目的があることから、再度基地周辺住民に上記の意義を明らかにして広く原告団を募り訴訟を提起することとなった。
 そして、平成7年12月25日原告数1653名で第3次訴訟、同8年5月21日原告数149名で第4次訴訟が提起され、両訴訟は併合されて審理された。これが本訴訟である。

2 原判決の内容と控訴審での争点
 本訴訟の原判決は、金沢地方裁判所で平成14年3月6日に言い渡された。原判決の内容は、民事差止の適法性及び損害賠償の請求を認めたが、原告等が強く求めた身体的被害を否定し、差止め請求を棄却するものであった。
 具体的には、自衛隊機の離着陸によって、基地周辺の住民等は、会話、電話による通話、テレビ・ラジオ等の視聴、読書等の知的営み、家庭学習、休息などの日常生活の様々な活動を妨害されることにより多大な精神的苦痛を被っており、騒音による不快感・圧迫感・恐怖感・不安感などを覚え、イライラする、怒りっぽくなる等の精神的・情緒的被害を被っていることを認めて、人格権侵害を認定した。しかしながら、原告が提出していた身体的被害に関する医学調査結果を理解せず、身体的被害を否定し、差止めを認めるほどの被害の重大性は認められないとして差止め請求を棄却した。
 そのため、原・被告双方が控訴をして審理が始まった控訴審での主たる争点は、民事差止の適法性、差止の要件ともなる騒音被害としての身体的被害が認められるか否かであった。

3 控訴審における主張・立証
(1) 控訴審における審理経過
 平成16年11月1日に第1回口頭弁論が開かれ、その後争点整理手続を経て、平成17年10月13日に騒音の検証、平成18年3月20日に身体的被害に関する調査を実施し意見書を作成した医師の尋問、平成18年5月17日に原告3名の本人尋問が行われた。
 そして、本訴訟は、平成18年10月2日に結審し、判決は、平成19年4月16日の予定である。
(2) 身体的被害についての立証
 公害訴訟においては広く認められている疫学的因果関係についての裁判所の正しい認識を求めるとともに、以下のような立証を行った。
 身体的被害の一例として小松基地周辺住民に睡眠障害が生じていることを医師の協力を得て詳細に調査した。また、騒音の多い昼間に睡眠が必要な夜勤者の睡眠に騒音が与える影響とその睡眠妨害が夜勤時に与える影響を調査した。
 調査の結果、住民には自覚症状だけでなく、全身に睡眠妨害による身体的症状が発現していることが科学的に明らかになった。
(3) 差止請求についての立証
 身体的被害の認定が差止問題と密接に関わるので、前述(2)の立証は、当然のことながら、差止請求をも意識したものである。
 加えて、差止問題についての論文を書いておられる立命館大学の吉村良一教授に意見書を依頼し、証拠として提出した。
(4) 自衛隊・在日米軍の適法性の問題
 本訴訟で原告らは、日々苦しまされている騒音の源である自衛隊・在日米軍の違憲性を問題として、周辺住民が被害を受忍せねばならないいわれがないと主張している。しかし、この3次4次訴訟においては、裁判所は原審・控訴審を通じて、違憲性についての立証等を認めない訴訟指揮をとり、憲法判断を回避する姿勢を示している。

4 むすび
 差止め請求が認められず、将来請求も否定されているため、小松基地周辺住民は、被害回復のためには、自ら訴えを繰り返し提起しなければならない現状にある。「人権救済の最後の砦」として、裁判所には、行政に阿ることのない、真の被害救済のための判決を期待したい。