そもそも私がこの弁護団に参加したいと思うようになったのは,それよりずっと以前,弁護士になる前の,さらに司法修習生になる前,司法試験に合格してすぐのころだった。 受験生時代の先輩である弁護士からこの訴訟の話を聞き,興味を持っていたところ,正式な修習の行く前の事前修習で,有明弁護団長である馬奈木弁護士の久留米第一法律事務所にお世話になることになった。この事前研修中,ちょうど有明訴訟の第1回期日に立ち会うことができたのだが,そこで馬奈木弁護士や他の弁護士,原告の意見陳述を聞き,現在の有明海の危機的な状況と,それを食い止め再生に向かう第一歩となる有明訴訟の意義を知り,私も弁護士になったらこのような仕事をしたいと強く感じた。
2 人使いの荒い弁護団
事務所に入所してすぐ,有明弁護団の弁護団会議に参加させてもらった。当時は佐賀地裁で諫早干拓工事を差止める歴史的な仮処分決定が出てすぐのころで,会議にも比較的余裕があった。私は,そんな中,念願の弁護団会議への参加でワクワクしつつも,正直なところ議論されている内容は良く分からないまま右から左へ抜けていっていた。
すると突然,「次の期日の意見陳述は,新人にやってもらおうか。」という声。みんなの視線が私に集まる。「え・・・。」と私は絶句するしかなかった。まだ法廷で「陳述します。」とも「公訴事実に争いはございません。」とも言ったことがない新人の私が,いきなり意見陳述するなんて。しかも次の期日というのは,たった2日後のことである。最初は冗談か本気か分からなかったが,他の弁護士が「新人弁護士の視点から仮処分の素晴らしさについて言えばいいから」などとアドバイスをくれるのを聞き,本当に意見陳述しなければならないということが分かった。
予想もしていなかった大きな仕事を与えられ,弁護団会議が終わってからは,仕事の合間に必死で意見陳述の内容を考えなければならなかった。なにしろ初めての経験なので,「新人にいきなり意見陳述をさせて,なんて人使いの荒い弁護団だ」とぼやきながらも,過去の意見陳述の内容をみてみたり,自分がこれまでに聞いた意見陳述の内容を思い出してみたりして,何とか自分なりの意見陳述書を作っていった。
結局,出来上がったのは期日当日の午前2時ころで,完成稿を誰かに添削してもらう暇もなく本番に臨まなければならなかったが,それでも自分なりに良く考えて作った意見陳述書だったので,これで文句を言われたら仕方ないという気持ちで,当日の法廷では思い切って読み上げた。
すると,陳述後,なんと傍聴席から拍手が起こったのである。まだまだ素人の文章なので,傍聴席の原告や支援の方々にとって分かり易かったからだとは思うが,私にとっては非常にうれしい経験だった。弁護士になって初めて,自分の仕事が認めてもらえた気分になれた。
3 弁護団に育ててもらえるありがたさ
意見陳述を無事に終えた後も,弁護団では,書面を書かせてもらったり,原告の被害調査をしたりと仕事をさせてもらっている。有明弁護団の良いところは,新人に対してでも仕事を任せてくれ,それを上の弁護士がきちんとチェックしてくれるところである。前に「人使いの荒い弁護団」というぼやきを紹介したが,それだけ新人を含めた各弁護団員に仕事を多く与えてくれ,新人にも多くの良い経験を積ませてくれる弁護団なのだ。弁護士を育ててくれる本当に良い弁護団だと思う。
前述した歴史的な仮処分決定が福岡高裁で不当にも覆されて以降,有明訴訟は,厳しい闘いが続いている。そのような中,私も被害論の一部を任せてもらっているので,責任感を持って,有明海の再生に向けて力を尽くしたいと思う。