第3次厚木基地爆音訴訟高裁判決確定にあたって

弁護士 岡部玲子

1 「温度は低いが神経の行き届いた判決」。
 数千人規模の住民による大規模基地訴訟で初の確定をみることになった第3次厚木基地爆音訴訟の控訴審判決をそういうふうに表現することができると思う。

2 2006年7月13日の判決当日,「がっかりした。高裁をやった意味がなかった」と連発する真屋原告団長を弁護士らが皆でなだめ,「地裁判決を確定させろとわれわれは言っていたのだから,文句言ったらバチが当たるよ」と説得をしたものだった。
 しかし,判決が薄く,本文が50ページしかないことには,当日いささか拍子抜けの感を持った弁護士らもいたことは事実だった。「厚木基地訴訟のW値80の壁」が破れた一審判決の基準は維持されたものの,W値75地域の「U類型区域」の違法性を認めないという水準は,かつての1〜3次横田基地訴訟の水準と同様で,苦心の地域実態についての控訴審立証にはほとんど言及なし。将来請求も定型の理由づけであっさりはねられ,防音工事減額についても10%+2室目以降5%というレベルから上がらず,「何の冒険もしない判決」「横田の水準を見ていない」「10民にしてはいい方では」など,弁護士らの評価も当日,正直いって高くなかった。

3 この控訴審判決の良い点というのは,後日目録をチェックするうちようやく見えてくるものだった。「いや計算に苦労しましたが,1点も間違いがなかったですねえ」と国。何と,損害賠償の期間計算が全部日割りであり(しかも所属月の日数により違いあり),検算には膨大な手計算が必要である。確かに控訴審では「期間1ヶ月未満切り捨て(市販のソフトではそうなる)はひどい,日割計算又は四捨五入をしろ」とは求めていたが,約4800人分をきちんと計算されてきたのは壮大である。
 居住場所認定(住民票と異なる現実の住所認定数十名あり)など,細かい点は頭が下がるくらいに緻密であった。防音工事にしても,「上限30%まで」という新たな限定がついており,横田控訴審のように画期的ではなくても,マイルドに限界を示す形になっている。
 これを一言で言うと,「一般民事感覚で処理される大量訴訟」というべきか。厚木基地につき不幸にして四次訴訟が必要になった場合には,三次訴訟の教訓はいくつかあったと思う。

4 結局,この訴訟では,「危険への接近」について原告本人尋問を一度もやらずして適用が排除されたわけで,理論の面もさることながら,一審の途中から「居住事情陳述書」を全員分取るという無茶な方針で裁判所を押し切った面があると思う。
 今から思えば,このようなものを提訴時に取り,更に転居状況をフォローする形にしておけば,作業がずっと楽だったわけで,「危険への接近はそもそも住宅密集地への騒音被害には適用がない」という判例理論が固まるまでは,そういう固い方法が安全かもしれない。
 防音工事について,国が出してきた防音工事一覧表は当てにならず,数十名にわたり,そもそも工事をしていなかったり,その後建物が滅失していたりしている旨を控訴審で追及したものの,証明した人しか救済されなかった。「大量訴訟では国の防音工事主張は当てにならない」という前提で,資料を収集しておく必要があったと思われる。

5 40数年にわたる爆音反対運動が続く厚木基地周辺では,運動の担い手の高齢化をマスコミに指摘されて多数落ちこんだ人が出たりもしたが,原告団事務所にひんぱんに出入りする当事者らの間には「ともかく厚木基地をなくす」という古老から「よく分からないが,こんな騒音は納得がいかない」という若い者に多少なりとも意思疎通があるように見受けられ,エネルギーは枯渇してはいないと思う。「やっぱり差止は何かやりたい」という声も後者から出たりし,南北に拡大されたコンター内の町田市あたりからも問い合わせが増える中で取組は続きそうである。