高裁判決をむかえる新横田のたたかい

弁護士 土橋 実

 新横田基地公害訴訟は昨年12月8日に国に対する訴訟の控訴審が結審となり、年内に判決が言い渡される見通しとなった。以下、控訴審の争点や判決のもつ意義について述べることにする。
1、新横田基地公害訴訟は、横田基地を離発着する米軍機の騒音被害等に苦しむ基地周辺住民が、1996(平成8)年から1998(平成10)年にかけて、夜間早朝の飛行差し止め、過去及び将来の損害賠償の支払いを求めて提訴した訴訟である。原告には、東京都昭島市、福生市、八王子市、日野市、羽村市、立川市、武蔵村山市、瑞穂町、埼玉県入間市及び飯能市の9市1町の被害地域住民約6000人が名を連ねている。旧訴訟では、国に対する飛行差し止めが認められなかったことから、今回はアメリカ合衆国も被告として提訴した。
 対米1次訴訟については、2002(平成14)年4月の最高裁判決が、「米軍機の飛行はアメリカの主権行為であるから日本の裁判権は及ばない」として住民の主張を認めず、対米2・3次訴訟の高裁判決もこれを踏襲した。日本の司法は、米軍機の飛行は違法状態にあることを認めながら、国に対する差止請求は「支配権の及ばない第三者の行為」、アメリカに対する差止請求は「アメリカの主権行為」とし、被害住民の裁判を受ける権利を否定して根本的な被害救済の道を閉ざしてしまった。
2、国に対する訴訟は、2002(平成14)年5月、東京地裁八王子支部が、飛行差し止めと将来の損害賠償請求は認めなかったものの、過去の被害に対し総額約24億円の損害賠償の支払を命じた。しかし、1審判決は、損害賠償を認めながらも「危険への接近論」に基づき賠償額を減額したり、共通損害を前提にしながら陳述書未提出原告の損害賠償を否定するなど多くの問題点を有していた。
 控訴審では、(1)アメリカに対する訴訟を認めないなら国に対する飛行差し止めを否定した最高裁判決を変更すべきであること、(2)国は自ら違法な状態を作出・放置しているのであるから「危険への接近論」による賠償の減免は許されないこと、(3)最高裁判決後も米軍機による騒音被害は依然として継続しているのであるから、騒音被害がなくなるまでの損害賠償(将来請求)を認めるべきであることなどを中心的な争点に据えた。また、この裁判は、法の支配の原理のもとで、度重なる司法判断にもかかわらず行政が違法状態を意図的に放置する場合に司法は何をなすべきか、すなわち、司法の存在意義そのものを問う裁判であることも強調した。
3、控訴審では、国を交えて進行協議を重ね、審理対象を1審判決のうち双方が不満な点に絞ること、大規模訴訟に伴う必要な事務手続は当事者双方が協力し対応することなどを確認し、控訴審では被害地域を撮影したビデオテープの検証、原告代表者2名の本人尋問と基地周辺の現場検証に絞り込み、控訴から2年半で結審をむかえた。「行政が違法状態を意図的に放置する場合に司法は何をなすべきか」との問いかけに対し、裁判所もかなり意識している様子がうかがわれる。また、新横田基地訴訟ににつづき厚木基地、嘉手納基地で大規模訴訟が次々提起される中で、裁判所は大規模訴訟に対する新たな判断枠組みを模索しているように思われる。一方、国は相次ぐ大規模訴訟に危機感をもち、横田基地の飛行回数は減少しているなどと主張し賠償額の減額に躍起となっている。さらに、被害の実態を無視し、近隣自治体の反対の声にもかかわらず告示コンターの見直し(縮小)を進め、いまだに根本的な音源対策を行おうとしない。控訴審判決は、予断許さない情勢である。
4、横田基地では、米軍の再編問題とも関連し、民間空港との共用空港化、あるいは自衛隊との共用空港化の動きが強まっている。民間空港との共用化については、地元の中には経済効果を期待し歓迎する声がある。しかし、被害地域の住民にとって、これ以上騒音被害が拡大する動きはとうてい受け入れられない。訴訟団では実行委員会を組織し、軍民共用空港化反対の立場から、去る7月31日「横田基地の軍民共用化を考えるシンポジウム」を開催した。シンポジウムでは、環境経済学の立場から「軍民共用化」に伴う都の経済効果について疑問が指摘された。また、自衛隊との共同使用をめぐる情勢についても報告がなされた。シンポジウムには日曜日にもかかわらず地元4市1町の職員も含め140名が参加し、この問題の関心の高さがうかがわれた。
 原告らは、この裁判で勝利するとともに、騒音被害を拡大する動きに対しては引き続き運動を続ける方針である。引き続き、みなさまのご支援をお願いしたい。