巻頭言 中国における「反日暴動」に想う
代表委員 弁護士 近藤忠孝
中国各地に頻発している激しい反日デモの暴動化には、心が痛むと同時に、私は、司法修習生時代に遭遇した60年安保闘争のデモ参加を思い出している。
私は、教室の黒板に「デモに行こう」と大書きして、同期の修習生に呼びかけ、14期修習生が大挙して法律家団体が組織した国会要請デモに参加したため、 司法研修所の教室がガラガラになってしまうことがしばしばであった。そのデモは、銀座通りにも進出し、広い道路一杯に広がるフランスデモにも発展した。後に、検事となり検事正、 高検検事長や内閣法制局長官に出世した複数の仲間や、現職の裁判官の姿も見られたことに、当時の運動の高揚ぶりが現れている。
司法研修所は憂慮し、教官会議を開いて検討したが、司法修習生に対し、「請願権・表現の自由」を禁止することは、憲法上出来ないという結論であり、「せめて、逮捕されないように」と注意を促すのが関の山であった。
中国における抗日デモのスローガン自体の多くは正当である。
「 国連安保理事国入り反対 」の要求は、侵略戦争に対する反省もない「歴史認識」欠如の日本の安保理事国入りは、「イラク侵略等の無法を繰り返して省みない『アメリカ』が理事国に1国増えるだけのこと」に対する正当な批判であり、アジア諸国民共通の認識である。これらと「侵略戦争美化検定教科書」 「靖国神社参拝」問題等を合わせ、中国人の反日感情を静める道は、9条改悪を断念し、平和憲法の誠実履行を基調とする日本外交の確立にこそある。
「日本製品ボイコット」のスローガンは、中国青年が日本製品を多用している現実と矛盾し、屈折した現象であり、「経済建設」をめざす中国の国策との関係で、よく整理されていない要求であることは否めないが、 「市場開放」状況のもので、中国の国民が「日本資本主義の脅威」を実感していることの反映であると思う。例えば、上海の目抜き通りの国営小売店が、日本のコンビニエンスストアの進出により廃業に追い込まれ、これが全国に広がろうとしている報道があるが、このことに端的に見られる通り、日本国内でのコンビニ紛争未解決のまま、経済体質の弱い中国に殴り込みをかけていることに象徴的に現れていること等の日本の「経済進出」に対する本能的な反発があると思う。
60年安保の壮大な闘いの経験と確信が、その後の公害裁判を含む諸活動の基本になっている私にとって、中国におけるこれらの要求運動が、暴力的な手段でなく、統制のとれた整然とした巨大なものに成長することを願う気持が一杯であり、その時こそ、中国の「反日行動」が国際的な共感と支持を得ることが出来ると思う。
公害弁連は、公害問題に取り組む中国の関係者との交流を重ね、相互理解を深め、日本における公害との闘いの教訓を真摯に学び、国内で実践しようとして人々(公害被害者法律援助センター)との間で、強い信頼関係が生まれて来ているが、これらの人々は中国における民主的な運動の先端に立っていると思う。今後の交流の中で、アジア地域に於ける公害根絶の共通の取り組みと合わせ、アジアの平和確立や、真の日中友好について、腹を割った真剣な議論をしてみたいと思う。そのことが、日本における我々の憲法擁護・平和を守る活動に大きなプラスになると確信する。