JRで移動して奈良に到着し、木原勝彬さんを紹介された。木原さんはNPO法人の代表者として奈良のまちづくり活動に取り組んでいる方だ。由緒が深い遺跡を擁する奈良のまちなみ(わが国の慶州と似ている。実際慶州と姉妹都市関係を結んでいる)の保存と復興のために努力している。奈良市の伝統家屋保存地域と景観条例による改善地域を順番に見た後、午後には地域自治運動を主題に懇談会を持った。日本ではNPO法が制定されており、これにより設立された非営利活動法人が政府と協調して政策を助言し、シンクタンクの役割を担っているという。その活動の本質はあくまでも住民自治であり、政府は後ろから運動に対する補助金支給等で支援するという。我々より住民自治の制度が整備されていると感じた。
公式日程を終え、東大寺という有名な木造建物のお寺を見るために、私たち一行は走るように移動した。大変な日程を終え週末の自由時間がようやく始まるという感じで、名所をリラックスして見られるとの期待感で私たちの表情はゆるんでいた。
● 7月14日
午前中、まずあおぞら財団を訪問し、西淀川公害訴訟の被害地と被害者宅訪問についての説明を簡単に聞き、本格的な日程に入った。
産業の急速な発展と高度成長をとげた60〜70年代、西淀川周囲に密集した工業団地や発電所による大気汚染が極めて深刻化した。84歳の元原告のお宅を私たちは訪問した。当時は夏に窓を開けて寝ると、こどもの顔に粉塵が黒く降り積もるほど大気汚染がひどかったという。お別れのあいさつをして外に出た私は、今でははきれいに感じられる外気を吸いながら、「そのときの汚染企業は今はどこでどのように操業しているのだろう」、と考えざるを得なかった。
午後は、同様の公害訴訟の現場である尼崎市の公害訴訟原告団を訪ねた。西淀川訴訟も尼崎訴訟も、長いものは20年、短いものでも12〜13年もの長い時間をかけて、勝利が勝ち取られた。
夜には労働問題に関心を持ち関連訴訟を担当する民主法律家協会と交流し、会員の弁護士らから日本で進行中のいくつかの事例を説明してもらった。研修所の労働法学会がこの場に代わりにいたら、豊かな討論の時間となっただろう。ただ、私たち一行の質問と答えもさして遜色がなかったことを、後に労働法学会の友人らとの話で確認できた。
その後、参加者たちは一緒に食事をし、語り合った。村松先生を囲み、日本での研修についての感想を私たちが述べる時間ももった。疲労とビールの心地よい酔いに身を任せながら、私たちの2週間にわたる日本での研修もとうとう終わるのだ、と感慨を覚えた。
すべての研修が終わるとき、私は次のような予感を持つようになった。私たちは今度の日本研修での経験を、あたかも軍隊を除隊した人がそうであるように、機会があるごとに口々に語り合うだろう。充実した日程の中で、ときには休息がほしいと感じたこともあったが、「歩いてみただけ学ぶ」という言葉はやはり間違いではない。自由時間にも私たちの遺跡地研修(?)は続いていた(大阪城、金閣寺、清水寺、神戸港、姫路城、有馬温泉等々)。
少数精鋭で動いた環境法学会の結束は、より強くなった。
最後に、公害弁連のみなさん、あおぞら財団のみなさん、その他、私たちを受け入れ多くを教えてくださった日本のみなさんに、心からの感謝を申し上げたい。
公害弁連「国際交流基金」カンパのご報告とお礼
国際交流基金
事務局長 弁護士 松浦信平
昨年11月発行の
「公害弁連ニュース」(第139号)でお願いを申し上げた「公害弁連国際交流基金」には、短い期間にもかかわらず、8団体、39名の方々から、総額123万(5月10日現在)もの貴重なカンパが寄せられました。本当にありがとうございました。
昨年度の公害弁連の国際交流活動を振り返りますと、2003年4月に、ソウルで大気汚染訴訟を計画する韓国の弁護士らが、東京大気汚染訴訟弁護団からの情報収集を目的に来日しました。日韓の交流は、相互理解を超え、実務交流へと深化しています。2003年9月に開かれた日本環境会議滋賀大会の際に持たれた「日中韓の公害被害者救済に関する懇談会」、2004年3月に熊本で開かれた「第2回環境紛争処理国際ワークショップ」等の機会にも、中国、韓国から公害、環境問題に取り組む多くの法律家が来日し、国際交流はますます深まりと広がりを見せています。毎年夏に「日本の公害、環境訴訟」をテーマに実施される韓国司法修習生の日本での研修も、公害弁連のみなさまのご協力により、たいへん充実したものとなっています。
みなさまからのカンパでつくられた「国際交流基金」については、幹事会での討論と承認を経つつ、これからますます活発化する国際交流活動に使わせていただきます。
なお、基金についてはリスクを伴う運用は予定しておりません。大切に使わせていただくのはもちろんですが、活発な国際交流活動を展開すればするほど、基金は目減りする関係にあります。将来的には再度のご協力のお願いを差し上げることもあろうかと思います。
また、基金へのカンパは今後も随時受け付けておりますので、「うっかり忘れていた」という方がいらっしゃいましたら、ぜひともご協力をお願い申し上げます。
新規加入 出し平ダム被害訴訟弁護団
弁護団事務局長 弁護士 青島明生
1 新規加入しました
3月21日熊本で開催されました総会で新規加入の申し込みをしました出し平ダム被害訴訟弁護団です。私自身は登録以来イタイイタイ病弁護団に加わり、公弁連とは馴染みがありますが、出し平ダム被害訴訟事件はもちろん、「出し平ダム」自身もご存じない方が多いと思います、比較的新しい事件です。
2 出し平ダムと排砂
出し平ダムは、関西電力が黒部川の河口から約26キロ上流に設置した、ダム寿命延長策として下部に排砂ゲートを持つのが特色の発電用ダムです。排砂で土砂を海に供給でき環境にも優しい、というのが売り物でした。しかし、1985年湛水開始6年後の1991年に初めて行われた「排砂」で流出したのは「砂」ではなくドブ臭鼻をつく「ヘドロ」でした。ダム底に貯まった枯葉等が貧酸素化で変質したのです。ヘドロは雪で真っ白の河床に墨汁を流したように流れ下り、数キロメートルにわたる変色域を作って富山湾に流入しました。そのひどさに関電も予定量の半分46万立米を「排砂」した時点で中止しました。
その後富山県は関電、周辺自治体長、学者、漁業関係者などの委員で構成する「黒部川出し平ダム排砂影響検討委員会」を1992年9月に設置しましたが、あくまで排砂継続を前提とした検討に終始し、海底や生物、漁獲量の調査などほとんど行わないで関電の排砂にお墨付きを与えました。そして、2回目1994年2月8万立米、1995年7月1・6万立米、1995年10月175万立米、1996年6月80万立米、1997年7月46万立米を「排砂」しました。
3 排砂による被害発生
まず、排砂によりごく一部待避していたものを除き川魚のほとんどが死滅しました。これに対しては関電は内水面漁協に補償を行いました。海でも被害が発生しました。砂質で県内有数のヒラメ好漁場であった黒部川以東の海底にかたく締まった真っ黒のヘドロが堆積し、刺し網の漁獲が数年で数分の一に激減しました。養殖ワカメの芽にヘドロが付着してワカメが死滅しワカメ組合は栽培を中止しました。この変化は排砂が継続的に行われるようになって河口付近から東側へ数年をかけて広がっていきました。現在では船を出すほど燃料代などが嵩み赤字操業となり操業を中止する人も出てきました。
4 県漁連の被害補償交渉
県漁連は地元河口以東8漁協の委任を受け関電と補償交渉を行いましたが、交渉の経緯や補償内容について十分な説明をすることなく、年間水揚げの数割にしか過ぎない補償を漁業者に配布して、今後行う通常排砂については一切異議を言わない旨の領収書を徴求して交渉を終えました。ところが県漁連自身が漁業者に報告しないで、富山湾全体についても漁場価値の低下が生じたとして、配分した補償額の数倍、数十億円の「漁業振興対策費」を取得し、自ら基金とし、周辺自治体に数億円単位で寄付をする、という異常なことが行われました。
5 漁業者の対応
深刻な漁業被害はその合意後の1997年以降顕在化してきました。一番の被害を受けたのは30名弱の入善朝日刺し網部会の部会員とワカメ栽培組合でした。しかし、地元漁協では遠洋漁業や定置網など排砂の影響を受けない漁業者が多数を占め、彼らは少数に過ぎませんでした。しかし、被害は深刻になったため、刺し網業者は立ち上がりました。
2001年6月11日富山県公害審査会に関電を相手に公害調停を申し立てました。しかし関電は頑なな態度を取り、調停委員長が提案した生物影響調査の実施を内容とする控えめの私案も拒絶したため、調停は2002年11月6日に打ち切られました。やむを得ず漁業者らは2002年12月4日富山地裁に、漁業行使権海域へのヘドロの流入差止、除去、漁業被害の補償を求めて富山地裁に提訴しました。しかし、海底で起こっていることを立証することは困難を極めています。県や国などは調査してくれません。そこで原告らは裁判所に、公調委に対して原因裁定嘱託するように申立ています。裁判所は被害発生が証明されれば、とし次回6月30日の第8回弁論で結論を出そうとしています。
6 支援ネットワークの結成
現在近藤光玉団長を先頭に、富山県弁護士会所属の東博幸、橋爪健一郎、菊賢一、足立政孝、坂本義夫、武島直子、私の8人の弁護士で訴訟を行っています。昨年の5月31日には、環境保護グループの黒部川ウォッチングをはじめ広範な富山県民でこの訴訟を支援するネットワークが立ち上がりました。
漁業者の人たちも「キトキト」(新鮮の意味)の魚が捕れる富山湾と漁業を子孫に残すことを目標としてアースデーに参加したり、国会要請を行ったり、と狎れない運動に取り組んでいます。ぜひ今後のご支援をお願い致します。
公害弁連沖縄幹事会にご参加を
事務局長 西村隆雄
公害弁連幹事会は、毎年1回をめどに地方開催にしてきましたが、本年は、いよいよ結審を迎える新嘉手納基地爆音訴訟の現地沖縄市において次のとおり開催することとなりました。ぜひ多数ご参加下さいますようお願いします。
記
◆ | 6月30日(水) | 午後2時〜5時 公害弁連幹事会
- 平和問題と沖縄の基地(小講演)
- 新嘉手納基地訴訟の法廷対策と今後の運動
- 普天間基地訴訟のたたかい
場 所:京都観光ホテル2階会議室
沖縄市胡屋2−1−51
TEL.098−933−1125
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午後6時〜 新嘉手納基地訴訟結審前夜集会 場 所:沖縄市「あしびなー」 |
◆ | 7月1日(木) | 午前10時〜12時 新嘉手納基地訴訟結審弁論(那覇地裁沖縄支部)
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