公害弁連ニュース 140号




巻頭言
基地騒音訴訟の今後

代表委員 弁護士 榎本信行

 横田基地、嘉手納基地、小松基地、厚木基地、普天間基地と全国で基地騒音訴訟が続いているが、過去の損害賠償は認められ、飛行差し止めと将来請求は却下ないし棄却という判決が続いている。
 これらの騒音訴訟が確定した後どうするのか、関係者の間で議論が始まっている。さらに大きな集団訴訟を繰り返していくのか。他の公害訴訟などでは、公害発生源の企業や国、自治体などとの間に公害の発生抑止、補償などについての協定を結んだりして、訴訟終結後の対策がとられているところが少なくない。この観点から基地公害訴訟は、どうしたらよいのかが問題である。
 防衛施設庁でも、基地騒音訴訟の頻発にいかに対処するかを当局の立場から意識し始めている模様で、最近「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」(「在り方懇」)がもたれ、「飛行場周辺における幅広い周辺対策の在り方に関する報告」が出されているようである(防衛白書平成15年版)。
 この報告書は、概要次のような内容のようである。
 (1)いわゆる公平補償を求める運動への対応として、騒音訴訟に参加しない住民も含め、飛行場周辺に居住する住民のさらなる理解を得る可能性の高い施策を追及すべき(なお、白書によると、騒音に不満をもちながら訴訟を起こさない住民の間に不公平感が広がり、過去分の損害賠償に相当する補償を求める運動が起こっていると指摘している。これを「公平補償を求める運動」と称しているのである)。
 (2) 周辺自治体や周辺住民の要望の多様化への対応として、限られた予算の中で、従来施策の継続を図るだけでなく、各地域の特性も踏まえた施策の多様化を図るとともに、航空機騒音の深刻な影響を被っている周辺地方公共団体や住民に焦点を当てたメリハリのある施策の展開が必要。
 さらに具体的な施策として、(1)住宅防音工事の一環として太陽光発電システムに対する設置助成。(2)住宅の外郭防音工事の促進。(3)防衛施設が存在するという特徴などを活かしたまちづくり支援事業(住宅を移転させた跡地を利用したまちづくりなど)。(4)既存公共施設の改修事業(防衛庁が既に助成して造った施設を住民のニーズにあわせた改修事業)。(5)飛行場周辺の周辺財産の積極的な利活用(防音のため造られた緑地帯などを公園などにする)。
 この内容で特徴的な点の1つは、音源対策に全く触れられていない点である。他の公害訴訟では、公害発生の中止、抑制をどうするかが対策の中心になっているが、基地公害では、発生源については、所与の前提とされていることである。飛行機の飛行回数を減らすとか機種を考慮するとかの努力は考えられていない。
 もう1つの点は、騒音被害の補償支払は、考慮されていないことである。訴訟を起こされなくても補償を支払うという考えはないようである。上記の対策は、いずれも直接的な騒音軽減対策ではなく、住民宣撫工作の色彩が濃厚である。
 かつて、1993年11月、東京高裁は旧横田第3次訴訟で、次のような趣旨の和解案を提示した。(1)やむを得ない場合をのぞき夜10時から翌朝午前7時までの飛行禁止、(2)騒音軽減の方策について協議するため、周辺自治体、住民らを含む協議機関を設置する。(3)損害賠償は、横田1、2次訴訟最高裁判決を基準として支払う、など。これに対し、訴訟団側は受け入れを表明した。しかし、国側はこれを拒否したのである。前掲の「在り方懇」の論調によると、この和解案を国が受け入れる条件は、相変わらずないと見ざるをえない。
 基地公害の場合、もう1つ重要な問題は、軍事公共性の観点である。他の公害訴訟の場合、企業排出公害にしろ道路公害にしろ、公共性については、住民側に根本的な争いはない。もっとも道路やダムの建設については、その中止の問題はあるが、それは基地の軍事公共性をめぐる争点とは質が違う。
 軍事基地の場合、基地そのものの公共性を肯定的に見るか否定的に見るかについて住民側に見解の相違がある。
 以上述べたような問題点を抱えて、基地公害訴訟の今後の展望を考えなければならないのである。





深刻な道路公害もたらす公共事業に歯止め
圏央道あきる野土地収用に執行停止決定

圏央道あきる野土地収用事件弁護団 弁護士 吉田健一

1 強制明渡の直前に停止決定
 去る10月3日、東京地方裁判所民事第3部(藤山雅行裁判長)は、圏央道(首都圏中央連絡自動車道ー国道468号)建設のための土地収用裁決にもとづく都知事の代執行を停止するよう決定した。
 今回の執行停止決定は、圏央道建設のために東京都あきる野市牛沼地域で進められている土地収用手続きに対するものであるが、すでに昨年(02年)9月30日に東京都収用委員会で出された土地収用裁決にもとづいて、石原都知事が代執行を進め、地権者らが居住している建物を撤去し土地の明け渡しを強行する段階にあった。その明け渡しを強行される直前で、ストップをかけたのが、今回の停止決定である。

2 執行停止を命じた画期的な決定
 本案の取消訴訟の判決は、04年2月24日に審理を終了し、まもなく判決が出されるという段階となっている。その判断を待つこともせずに、起業者らは、代執行手続きを進めて、明け渡しを強行しようとした。その代執行にストップをかけた今回の執行停止決定では、以下の点が明らかにされた。
(1)回復の困難な損害
 決定は、「居住の利益は、自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生するものであって、人格権の基盤をなす重要な利益であり」、「終の栖として居住しているものの利益は、その立場に置かれたものには共通してきわめて重要」で「非代替的な性質を有する」と判断した。 地権者の中には、80歳の高齢で病気のために入院・加療中の地権者もいる。地域・近隣の相互援助のもとにようやく生活を維持している。強制的転居がもたらす危険性を考えると金銭によって代替することは到底できないのである。
(2)公共性への疑問
 決定は、圏央道建設の公共性、特に工事を急ぐ必要性に疑問を提示した。そして、「建設される道路に瑕疵があって本件事業認定及び収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず、その可能性の有無を十分みきわめないままに、あえて建設を強行することを正当化するものとは到底いえない」と判断した。
 実際、全長300キロメートルに及ぶ圏央道計画のうち、今日開通している部分は本件より北側のわずか28、5キロメートルであって、全体の10%にも満たない。今後10年をかけて全体を開通させようとする道路計画なのである。加えて、本件土地収用により開通する部分は1・93キロメートルにすぎず、そんな短い区間に2つのインターチェンジを建設しようとしているのである。さらには、その先の工事も遅々として進んでいない。
 本件土地部分より南西側にある北八王子インターから、さらに南に位置する八王子ジャンクションまでの間で、多くの住民によって道路建設工事の差止訴訟(いわゆる「高尾天狗訴訟」)や事業認定取消訴訟が提起されており、収用委員会の審理中である。のみならず、この地域で着工済みの工事も、井戸涸れ、沢涸れ、ダイオキシン土壌の撤去問題など難問が続出し、工事ストップを含めて遅延は著しい。開通の見通しが立っていないのである。
(3)取消訴訟で取り消す可能性
 決定は、圏央道に欠陥があることを指摘した私たちの主張・立証を踏まえて、本案でも収用裁決を取り消す可能性のあることを明示した。そこでは、事業認定の違法が収用裁決の違法として承継されるとの立場にたつことをを明らかにしている。
 以上のように、本決定は、数ヶ月に迫った収用裁決取消訴訟の第1審判決言い渡しから起算して15日後までの間、代執行の停止を命じたのである。

3 停止決定をめぐる攻防
 停止決定に対しては、環境破壊をもたらす無駄な公共事業にストップをかけたという重要な意義が各方面から指摘された。
 しかし、その一方、公共事業がストップされたことに対して、起業者側や公共事業を進める立場からの攻撃もすさまじい。
 起業者側は、直ちに即時抗告し、1年で40億円の得べかりし利益が失われるとし、工事が1日遅れるごとに1000万円の損失が発生すると根拠のない主張を繰り返している。 さらに、圏央道建設を含む東京の環状道路の建設の「必要性」を強調し、道路ができれば渋滞が解消し大気汚染も改善されるなどと使い古された宣伝文句を並べ立てている。
 抗告審の継続した東京高裁第16民事部では、審尋期日に鬼頭裁判長も顔を見せず、担当の納屋裁判官がひたすら書類の確認など実務的な整理に終始したうえ、2003年中に判断すると明言した。その後の弁護団からの面会要求に対しても、これを拒否する態度をとっている。
 全国各地からのご支援をいただき、要請行動などが取り組まれている。が、東京地裁民事3部(藤山裁判長)と異なり、厳しい判断がされる危険も大である。
4 実効ある収用裁決の取消を求めて
 本案訴訟も、04年2月24日、いよいよ弁論終結、そして判決を迎える。この本案の取消訴訟での勝利も確実にしなければならない。圏央道の建設用地に対する本件収用裁決を取消すことができれば、公害による健康被害が発生するような道路の建設をやめさせることとなる。いわば公害の発生源そのものを作らせない、根元的な公害の差止となる。同時に、バブル時代前後の杜撰な計画にもとづく無駄で無計画な公共事業を中止させることとにもなるのである。
 本案の取消訴訟で勝利したとしても、その勝利を実効あらしめるためにも、その間の収用手続きをストップさせ、現状を維持しておかなければならない。その意味でも、執行停止をめぐる攻防が最大の山場となる。いっそうのご支援をお願いする次第である。

(追記) 脱稿後の2003年12月25日、東京高裁第16民事部(鬼頭季郎裁判長)は、不当にも、土地収用執行停止決定を取り消して、地権者らの停止申立を斥ける決定をした。今後は最高裁に特別抗告を行い、本案訴訟と並行してたたかいを維持することになる。なおいっそうのご支援をお願いしたい。





横田基地公害訴訟控訴審はじまる

新横田基地公害訴訟弁護団 弁護士 土橋 実

1 新横田基地公害訴訟は、1996年4月、国とアメリカ政府を被告として、夜間・早朝の飛行差し止めと過去及び将来の損害賠償を求めて、第1次提訴を行いました。97年の第2次提訴、98年の第3次提訴と続き、この裁判は、米軍の飛行騒音の被害地域(東京都福生市、昭島市、羽村市、立川市、武蔵村山市、日野市、八王子市、瑞穂町、埼玉県入間市及び飯能市の9市1町)に住む約6000名の住民が原告となる大訴訟になりました。
 2002年4月、最高裁判所は、アメリカ政府に対する訴訟に対し、我が国の裁判権は及ばないとして訴えを却下しました。
 同年5月、東京地方裁判所八王子支部は、国に対する訴訟に対し、夜間早朝の飛行差し止めと将来の賠償請求は認めませんでしたが、過去の被害に対しては総額約23億円の損害賠償の支払を命じました。ただ、「危険への接近論」に基づき、被害住民の損害賠償金を一部減額したり、共通損害を前提にしながら陳述書を提出できなかった原告の損害賠償を否定するなどの問題点を有しています
 弁護団では、この間1審判決の問題点を検討し、詳細な反論を記載した控訴理由書を提出しました。控訴審では、(1)アメリカに対する訴訟を認めないなら国に対する飛行差し止め請求を認めるべきであること、(2)自ら違法な状態を作出・放置している国に「危険への接近論」による賠償金の減額は不当であること、(3)93年の最高裁判決後も違法な飛行状態が依然として継続しているのであるから、将来の損害賠償金の支払いも認めるべきであることなどを前面に押し出しています。

 2 控訴審の開始にあたり苦労したのが、約6000人にも及ぶ原告から訴訟委任状を集めることです。とくに、訴訟提起後今日までに200名余りの原告が亡くなっており、訴訟承継など事務的手続で困難な問題も生じています。訴訟は、この間裁判所と原告・国との間で進行協議を繰り返してきましたが、昨年11月26日、第1回口頭弁論期日の開催にこぎつけました。

3 当日は、早朝に裁判所前でビラまきを行なった後、引き続き都内各団体へ支援要請活動を行いました。また、多数の原告がバスを仕立て、法廷へ乗り込みました。午後3時からの裁判は、東京高裁の101号法廷に入りきれないほどの人が集まり、静かながらも熱気に満ちた口頭弁論期日をもつことができました。
 法廷では、榎本信行弁護団長が訴訟の意義、吉田健一弁護士が国に対する差し止めの必要性、犀川治弁護士が将来の損害賠償請求の正当性、山口真美弁護士が「危険への接近論」で賠償額を減額するのは不当であることなどを訴えました。また、嘉手納基地訴訟の神谷誠人弁護士、普天間基地訴訟の横田達弁護士から、それぞれ応援の陳述をいただきました。その後、3名の原告が裁判所に、それぞれ被害の実態や被害地域に居住するに至った経緯などについて訴えました。最後に、違法な飛行状態を放置し続ける国に対し、裁判所は過去の損害賠償を認めるだけでは不十分であり、国が違法状態を根本的に解決せざるを得ないよう、従来の枠をうち破り、飛行の差し止めや将来の損害賠償を認めるべきことを求めました。

4 引き続き行われた進行協議では、弁護団は裁判所に対し、控訴審でも現場検証を行うこと、騒音実態を撮影・録音したビデオ検証を行うこと、違法な騒音を放置し続ける国の責任者である外務大臣や防衛施設庁長官の証人尋問を行うこと、被害の実態や居住の経過について本人尋問を行うことを求めました。
 裁判所は、原告と国の双方に対し、原告の居住の事実については当事者間で調整して確定することを求めました。また、原告に対し、委任状問題や訴訟承継など、手続問題について裁判所の負担軽減を図るよう協力を求めています。併せて、裁判所は、控訴審では法的な争点を中心に双方が不満な点を中心に判断を行う予定であること、被害救済へ向けできるだけ早期に判決を行う意向であることを表明しています。
弁護団は、当面、手続問題の早期決着に向けて精力的に取り組み、裁判所が速やかに訴訟を進行できるよう努力する方針でいます。

5 今後の運動面では、騒音被害を増大させる横田基地の軍民共用化問題については、反対の署名運動などに取り組むとともに、被害地域の自治体に対し、請願・陳情等を行うなど積極的な運動を行いたいと考えています。引き続き、みなさんのご支援をお願いいたします。





被害者救済 ― 川崎から突破口を

川崎公害訴訟弁護団 事務局長 弁護士 篠原義仁

1 川崎では、公害健康被害補償法が改悪されたのちにあっても、川崎公害裁判原告団、弁護団、支援共斗会議(当時。現在は川崎公害根絶市民連絡会に発展的に改組)などを中心とする運動の力もあって、公害患者に係る2つの医療費救済制度が現実に機能している。
 川崎市は、南北に細長い地形的特性を有し、南部の臨海部にいわゆるコンビナート地帯が位置している。しかし、その地形的特性から南北をつなぐいくつかの幹線道路を縦軸として、東京と横浜をつなぐ多数の幹線道路、高速道路を横軸として、これを中核に川崎市全体の道路網が形成されている。
 こうしたなかで、「川崎市小児ぜん息患者医療費支給条例」(川崎市7区・全市対象で、20歳まで)に基づく支給対象者は、1991年に3,219人であったのが、2001年には、5,890人と増加し、一方、「川崎市成人呼吸器疾患医療費助成要綱」(旧認定地域に対応する川崎区、幸区のみ対象で、20歳以上)に基づく支給者は、1991年に92人であったものが、2001年には550人に急増している。
 また、神奈川県教育委員会が行った「学校保健実態調査」では、1986年から2001年の14年間で、小学生が2.1倍、中学生が2.2倍と急速な増加をみせ、20歳以上の患者についても川崎市医師会調査(全市対象)では、1991年の6,121人から12,886人と、2.1倍に増加している。
 まさに、川崎市の公害被害はなくなったどころか従前にも増して、より深刻により広範に進行している。

2 その原因は、何か。川崎公害判決(2次〜4次訴訟。1998年8月5日)は、12時間あたり自動車走行量が1万台以上の幹線道路を共同不法行為者として捉え(道路網の承認と面的汚染の責任追及)、被告としてすえた国及び首都高速道路公団に加え、神奈川県、川崎市の加害者責任をも断罪した。
 この結果、国、公団はもとより、神奈川県、川崎市も、道路の設置、管理者として被害者の救済と公害の根絶責任を負わされることろとなった。
 この道路公害(自動車排ガス)の法的責任と前述した川崎市の全市的道路網の存在を念頭におくと、川崎市における被害者拡大の事実とその加害責任の所在は容易に理解される。
 すなわち、川崎市の12時間値、1万台以上の幹線道路は、概ね南から北の順で追うと、高速湾岸線、高速横羽線、産業道路、国道15号、国道409号、国道132号、国道1号、尻手黒川線、川崎府中線(府中街道)、多摩沿線道路、綱島街道、高速第3京浜、国道246号、東名高速、世田谷町田線の15本となっている。そして、その走行台数は年々減ることなく推移している。
 その結果、川崎市の大気汚染の実態は、従前全国ワースト・ワンで「名をはせた」川崎区の地上自動車排ガス測定局の汚染濃度とほぼ同等で、川崎市の2001年測定では、例えば池上局がNO2濃度(旧基準0.02PPM)が0.048PPMに対し、国道246号線近くの二子測定局(高津区。川崎の北部地域)ではそれを超えて0.049PPMとなっている。SPM濃度も同様の傾向で、川崎市の自動車排ガスによる道路公害は、川崎南部(旧認定地域)にとどまらず、中部、北部地域と一様に汚染されるに至っている。
 その因果の当然の帰結として、ぜん息患者が急増し、例えば小児ぜん息の医療者救済対象者でいえば、川崎北部の多摩区、宮前区が川崎区、幸区のそれを上回っている。

3 こうした被害の実態と大気汚染の実情に照らせば、最終的には東京大気裁判の勝利、その他各地の要求斗争の高揚のなかで、公害健康被害補償法に基づく被害者救済制度が国レベルの制度として再構築される必要があるが、その間の緊急の課題として、最小限医療費救済の課題については地方自治体の責任で制定、補充される必要がある。
 しかし、川崎市の制度は、すでにみてきたとおり、全市展開の小児ぜん息患者については満20歳で救済が打ち切られ、他方、川崎区、幸区対象の成人ぜん息患者については残り5区が救済もれとなっている。
 そこで、川崎公害原告団が中心となって広く市民に呼びかけ10月10日に略称「ぜん息救済連」(会長 柴田徳衛東京経済大学名誉教授)が組織された。同時に川崎では、同準備会の段階から「ぜん息患者等に対する医療費救済を全年齢及び全市に拡大すること」を請願項目にして目標5万人の川崎市議会あての請願署名が展開された。
 その請願(既提出数3万名)に関する健康福祉委員会審議が11月14日に行われ、ぜん息救済連は、当日、早朝、駅頭宣伝、委員会審議前の市役所前宣伝行動、委員会傍聴行動を組織してその取組みを展開した(この行動には川崎だけでなく東京患者会等も多数参加)。超満員のなかで開催された委員会審議(自民党、公明党は紹介議員にならず、その余の会派が紹介議員)は、民主党議員の事実確認(大気汚染と公害患者の激増状況、北部地域にも波及している実態)の質問に象徴されるように、改めて川崎公害の実態が浮きぼりにされた。
 但し、審議の結果は、国に対して救済制度の創設を求める意見書を議会として提出することを全会派一致で決議するという前進を引き出したが、他方、川崎市自身が財政負担をすることとなる本来的な請願項目については継続審査となり、課題を今後の審議に残すところとなった。

4 この結果をうけて、ぜん息救済連では請願内容の実現をめざして、署名の目標達成にひきつづき全力投球すること(残約2万名)、川崎市交渉(できうれば市長交渉のセット)を行うこと、全ての全派面談(勉強会)と積極的支援の要請を行うこと、キーポイントになる川崎市医師会との友好的な関係の確立を行うこと、川崎南・中・北部での統一的大衆的宣伝、学習会等の行動を展開すること、マスコミ対策を重視することなどを当面の目標にあげ、取組みの強化を確認している。
 年明けの議会との関係でいえば、2月以降の審議が重要視される関係上、来年1月31日には、この問題の学習と斗いの経験交流をメインに「新春のつどい」を開催することとした。
 同時にこの課題は、補償法制度の再構築につなげる課題であり、川崎市の運動体としては、全国の患者会、全国の大気汚染問題と取組む原告団、弁護団、そして、全ての公害環境問題に取組む諸団体、諸組織にも幅広く共斗を呼びかけ、まず、川崎からその突破口を開こう!を合言葉にお互い奮闘しあうことを誓いあっている。





「差止裁判プレシンポ」開かれる

弁護士 岩井羊一
 公害弁連のプレシンポジウムとして、2003年10月5日、東京において「差止裁判プレシンポジウム」が開かれた。このプレシンポの目的は、大気汚染訴訟や廃棄物処理場で差止判決が相次いでいる中で、「差止めを定着させる闘いをどう作るか、議論をすすめ、差止めを定着させよう」(近藤忠孝弁護士の挨拶)ということにあった。オブザーバーとして広島大学教授の富井利安先生もお招きして議論をした。
 福岡の馬奈木弁護士から、産業廃棄物裁判について報告を受けた。産業廃棄物の訴訟にうち、産業廃棄物の最終処分場は作らせていない闘いがかなり定着している。しかし操業の差止め、焼却施設の差止めは小型の従来型については差止め例があるが、大型溶融炉の建設差止めは困難であるとのことであった。操業している施設については、健康の危険性がどこまであるのか不明であるという反論、ないと町にごみがあふれるという反論にどう対抗していくかが課題となっており、この点は公害訴訟と構造は同じように感じられた。
 次に道路の関係では、大阪の村松弁護士から神戸西須磨の公害調停事件の報告があった。調停では調停を打ち切らせないねばり強い交渉、調停外では自治会やそのほかさまざまなルートで交渉をもち、運動をひろげて、差止を実現していく手法が報告された。名古屋の岩井と樽井弁護士からは、名古屋の環状2号線の公害調停事件の報告をした。同じ公害調停を使って道路建設の差止めを求める手法であるが、道路の規模や公害調停の調停委員会の対応から、大阪とは違い課題が大きいと報告した。調停の位置づけについて意見が交換された。
 道路の関係では高尾天狗裁判について関島弁護士から報告があり、公害だけでなく環境の観点からのさまざまな主張をされている点が興味深かった。個人の被害ではなく、全体の人のための自然、都会の人が訪れるための自然の意味を問うものであるが、これを同裁判において主張する権利として結実させるかが課題である。これに対する、富井先生からのコメントで、景観の法的保護に関して、個人の権利を超える「公共的利益」というものを想定し、この公共的利益を個人が享受できる権利として構成するアプローチが紹介された。国立市景観訴訟において富井先生は意見書を作成しており、大変興味深かった。
 道路に関しては、このシンポの2日前である10月3日、あきる野の代執行手続の手続の停止が認められこの報告もなされた。
 よみがえれ有明訴訟について、福岡の堀弁護士、高橋弁護士から報告があった。有明訴訟は、豊饒の海である有明海が干拓事業により崩壊していることから、全体の環境を守る必要があることを主張の骨子として闘っている。ここではどう個人の権利と全体の環境の保全を結びつけていくかが課題とされているとのことであった。ここでも「公共的利益」の考え方が参考になるだろう。
 川辺川訴訟について、熊本の森弁護士から報告があった。5月の高裁勝訴以降の動きについて報告があったが、引き続きダム建設阻止のために弁護団が地域に入り、精力的に活動している報告があり、裁判だけでなく運動を組織していく活動を実行していく弁護団に感心した。ダムについては徳山ダム弁護団から書面で報告があった。
 大気汚染訴訟については、尼崎弁護団の羽柴弁護士から報告があった。羽柴弁護士からは差止を勝ち取った尼崎判決の解説と、その後の和解条項が守られないことから提起された公害調停のあっせんの合意についても報告があった。連絡会も含め、画期的な差止判決だけでなく、その後の「差止」を実現していく運動の経過も報告された。東京の小海弁護士から東京大気裁判の報告があった。東京裁判では差止めが認められなかったが、このことについての分析、控訴審に向けた反論の内容が報告された。議論としては、尼崎、名古屋と差止が認められ、前進してきた中での後退であるが、さらなる前進をするためよりいっそうの議論をしなければならないという指摘があった。
 最後に富井先生には、「具体的に力のこもった詰めた議論が参考になった。差止めは研究者も興味をもっている。環境権は、人格権で足りるという議論も変化しつつある。」というコメントをいただいた。板井幹事長が、差止めについて、公害弁連が攻め込み前進している。基地公害についてはふれられなかったことは残念だが、これらを含め被害者、地域住民を含めた本格的な差止シンポを開きたいと締めくくって閉会した。
 普段は、このように詰めた形で議論していない異なる種類の弁護団の活動も参考にできた。闘いは様々な形で行われており、けして差止判決だけが「差止」の方法ではないことを強く感じた。また、「公共的利益」という新しい理論を学んだことも大きな成果だった。





【若手弁護士奮戦記】
普天間基地爆音訴訟

弁護士 金高 望

1、はじめに
 私は、この原稿を書いている2003年12月現在で弁護士になって約2か月。「東京から普天間基地爆音訴訟弁護団に参加している変な奴がいる」と公害弁連の方の目にとまって、執筆の機会を頂くことになったわけですが、まだまだ「奮戦記」を書くことができるような奮戦はしておりません。したがって、この文は、今後奮戦する(であろう)者の決意表明として読んで頂ければ幸いです。

2、那覇修習・「爆音」体験
 私は、1年間の実務修習を沖縄で過ごしました。沖縄の自然、音楽、食べ物、泡盛、そして気さくな人達に魅せられ、「沖縄病」に罹患するまでほとんど時間は必要ありませんでした。
 他方、沖縄の米軍基地はとても存在感があります。那覇空港から那覇へ続く道の左側には軍港、那覇から国道58号線を北上すると両脇に基地が延々と続きます。沖縄の地元紙「琉球新報」「沖縄タイムス」に米軍に関する記事が載らない日はないほど。私は沖縄に来て初めて、米軍機が頻繁に不時着していることを知りました。基地の外の畑で米軍の弾丸が発見され、大騒ぎになったこともありました。沖縄では、本土では報道されない米軍に関する様々な、そして多くの事件が発生しています。
 那覇は普天間・嘉手納両基地から若干離れており、騒音に悩まされることはそう多くありません。それでも時々爆音を轟かせる軍用機が頭上を通ります(自衛隊機もありますが)。そして、国道58号線を北上したときに時々遭遇する普天間・嘉手納の爆音…
 さすがの沖縄も海に入ることができなくなった冬、弁護士の紹介で嘉手納基地爆音訴訟の原告の方の家に泊まるという体験をさせて頂きました。いつまでも止まらないエンジン調整の音、時おり響く軍用機・ヘリコプターの騒音。夜闇の中、ぼおっとオレンジ色に染まった嘉手納基地からまさに「爆音」が響いてきました。これは想像以上だ…

3、 本土との温度差
 沖縄では旧態依然とした開発による環境破壊が続けられ、整理縮小するはずだった米軍基地がいつまでも居座っています(リーフ上に新たな基地を作るなどもってのほかですが)。他方で、基地や公共事業がなければ経済が成り立たないという現実もあります。沖縄をここまで追いつめたのは誰だろう。
 沖縄の基地問題を考えるとき、沖縄の問題に対する本土の者の冷淡さを感じずにはいられません。本土は今表面的には「沖縄ブーム」ですが、沖縄の「負の側面」ときちんと向き合っているだろうか。沖縄に負担を押しつけていることを分かっているだろうか。沖縄の「負の側面」など、本土ではほとんど報道されません。大和人(ヤマトンチュー)の1人として、沖縄人(ウチナンチュー)に申し訳なくなります。

4、 普天間弁護団への参加・これからの活動
 私は修習中に普天間弁護団から声をかけて頂き、東京から参加することにしました。なぜ普天間なのか?これまで書いてきたような沖縄の基地問題に対する思い入れもありますが、「裁判がまだ始まったばかりで、自分の活動できる余地が多分に残っているのではないか」「弁護団に若い顔なじみの弁護士が多いので、自分も積極的に活動できるのではないか。」という憶測がありました。
 弁護団会議等のため、11月に2度沖縄へ行きました。今のところ、先行する第2次嘉手納訴訟で裁判所がたてこんでいること等の理由により、裁判はあまり進んでいません(裁判所の怠慢とも言えますが)。そして何より、普天間では国と海兵隊司令官個人を被告としていますが、米軍が訴状の受取を拒否し、提訴から1年以上が経過してもまだ司令官に送達できていない (これが裁判所最大の怠慢。裁判所は米軍になめられている。) そういう状態ですので、私が実際に「奮戦」することになるのは、もう少し先になりそうです。まずは先輩方が勝ち取ってきた業績を勉強することからスタート。そして、せっかく東京にいるのだから、各地の爆音弁護団にも顔を出させて頂けたらと考えています。
 静かな夜を返せ!
 この当たり前の要求が1日も早く実現するよう、微力ながら頑張っていきたいと思います。





第2回環境紛争処理〈日・中〉国際ワークショップ熊本にご参加ください

幹事長 弁護士 板井 優
1、 来春3月20日・21日熊本開催
 去る10月の日本環境会議滋賀大会では、日本、中国、韓国から弁護士や研究者が大挙して参加し、終了後も公害弁連の呼びかけで意見交換会が行われました。本来、昨年3月に、第2回環境紛争処理〈日・中〉国際ワークショップのプレ企画が熊本で開かれる予定でしたが、昨年末からのサーズ問題で中止となったままになっていました。
 そこで、滋賀大会を機に近いうちになんとか開こうということで話がまとまり、現在までのところ、関係者で作業がなされています。

2、準備状況
 現在まで、準備状況は大筋次の通りとすることになりました。
3月18日 夜水俣被害者交流会(水俣)
19日午前水俣現地見学
午後昼食後懇談会
 水俣病事件訴訟の労苦の話など
 水俣病訴訟弁護団から弁護士(予定)
熊本宿泊予定(弁護団との交流会予定)
3月20日午前第1セッション 「公害被害者救済はどこまで来たか」
基調報告 淡路剛久教授
午後第2セッション 「公害環境訴訟で直面する問題と戦術」
 中国弁護士 訴訟事例報告
 韓国弁護士 参加があれば?
 日本弁護士 コメントと質疑
午後第3セッション
「紛争処理・被害者救済制度の課題と展望」
 中国 行政制度の対応
 中国 立法機関の対応
レセプション
3月21日午前総合討論(パネルディスカッション)
午後公害弁連総会(熊本学園大学)
  
中国側からの参加予定者公害被害者法律援助センター(3)・学者(4)・弁護士(2)・裁判官(1)・行政官(1)・立法担当責任者(1)・環境医学専門家(1)・汚染被害者(1)・新聞記者(1)
通訳逐次通訳(日・中)
韓国語の通訳は用意しない。
※ 発言原稿を作成する。
   
3、各地の弁護団・被害者の大勢の参加を呼びかけます。
 今回の企画は、通訳の都合で、韓国語の準備は環境会議ではしませんが、韓国からの参加者も予定されており、公害環境問題の処理と、被害者との交流という面で重要な企画です。
 この企画にゆっくりとツアーを組んで公害弁連総会までお付き合いください。
 少なくとも、不知火海の新鮮な魚はもちろん馬刺しと球磨焼酎で大歓迎します。





第33回公害弁連総会にご参加を

事務局長 西村隆雄
 本年度は、川辺川利水訴訟高裁判決、圏央道あきる野明渡裁決執行停止決定での画期的な勝利に象徴されるように、環境破壊の大型公共事業見直しに向けたたたかいが精力的に取り組まれた1年となりました。
 こうしたたたかいの前進を踏まえて、下記のとおり、第33回公害弁連総会を開催します。
 今回は昨年12月をもって審尋がうち切られ、まさに公弁連総会の日程に相前後して仮処分決定が出されようとしている「よみがえれ!有明海訴訟」をめぐって、提訴以来1年余の闘いを振り返り、今後の展望を語り合うシンポジウムをあわせて開催します。また総会に先立って、別報のとおり第2回環境紛争処理・日中ワークショップ熊本が開催されます。 あわせて是非ご参加いただきますようお願いします。
3月21日(日)午後1時半〜3時
  シンポジウム「よみがえれ!有明海訴訟 処分決定を受けて」
午後3時〜4時半
  第33回公害弁連総会
   場所:熊本学園大学 4号館412号教室
       熊本市大江2−5−1
       TEL.096-364-5161
3月19日(金)〜
3月21日(日)
 第2回環境紛争処理・日中ワークショップ熊本
※ 交通案内等は熊本学園大学 《アクセスマップ》のホームページをご覧ください。